日本の「農家民泊」が秘める小さくない可能性 イタリアでは一大産業になっている

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──イタリアはスローフードの先進国でもあります。

日本ではスローフードというと食べ物に限定した理解が多いが、もっと総合的な運動をいう。NPOの形を取りプロモーションを主とする活動だ。ジャーナリストによって始められ、当初は農業も農家も直接には関係なかった。

日本で初期のスローフードに似ているのは、和歌山県にある一般社団法人の田辺市熊野ツーリズムビューローだろう。海外向けに熊野古道のプロモーション事業に専念し、行政が補助金を出している。

目的は同じ

金丸 弘美(かなまる ひろみ)/1952年生まれ。大東文化大学を卒業後、出版社などを経て、「食からの地域再生」「食育と味覚ワークショップ」「地域デザイン」をテーマにコーディネートを手掛ける。農村観光需要の振興、特産品のプロモーション、食育アドバイザーとしても活動。(撮影:尾形文繁)

──プロモーションのため?

スローフード協会もその目的は同じ。州政府がこのNPOにおカネを出している。たとえば地域の食材を大学と共同調査して、この地域だけにしかできないチーズやワイン、オリーブ油を特定していく。商品の由緒、生産履歴を明確にすればブランディングがしやすい。それをメディアに発信し、ショールームを作って展示会をする。地元還元を優先して、専門業者に任せず地元の人を雇用して進める。スローフード協会のメンバーは150人ほど。その中には地方議会の議員もいて、ノウハウの地域還元を怠らない。

別会社形式の出版で成功したといわれているのがイタリア版「ミシュランガイド」の『オステリエ・ディタリア』。地元の食材やおいしい店を行政や大学と連携して調査し、間違いない商品だけをイタリア語のガイドブックに載せる。覆面調査を全土で行い1700店余りを収録している。オーガニック料理とワインで定評があり、このガイドブックのおかげで、中山間地の農家レストランはクオリティの高い食事が出せるようになったといわれているほどだ。

──大学運営もしています。

2004年に大学を開設したのに加え、コンサルタント事業もし、優秀な専門人材を育てている。スローフードとして、食材や郷土料理を大切にするのは当然としても、広い範囲のこだわった商品のプロモーションが実にうまい。日本はこの種のイタリア商品は圧倒的な輸入超過になっていて、食に関しては完璧に負けている。

──日本はこんにゃくを輸出していますね。

確かに群馬県昭和村の野菜くらぶがこんにゃくをイタリアに輸出している。この展開にはクオリティの高さと低カロリーが効いた。ただし、イタリアはすべてにおいてもっと戦略的組織的にやっている。

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