絶品「1本1100円の牛乳」は牛の幸福度が違う 酪農業界の常識を破る「なかほら牧場」の挑戦
松屋銀座(東京・中央区)の地下で、売り場の一角を占める「なかほら牧場」の店舗。ソフトクリームやバター、ヨーグルトドリンクなどの乳製品がずらりと並ぶ中、ひときわ目を引くのが、大きな瓶に入った牛乳だ。
値段は、720mLで1100円(税別)。リッターあたりに換算すると1600円以上だから、200円程度の市販の牛乳と比べると、約8倍。決して買いやすい値段とはいえないが、一番の人気商品だ。「一度飲んだらやめられないと、定期的に買いに来られるお客様もいます」(店舗スタッフ)。いったい、この値づけにはどのような背景があるのだろうか。
「牛乳パックの風景」は当たり前じゃない
岩手県下閉伊郡・岩泉町の標高700~850mの北上山地に、この牛乳を生産する「なかほら牧場」はある。
まず目に飛び込んできたのは、山の稜線をのんびり歩く乳牛たち。市販の牛乳パッケージによく描かれる風景なので、多くの消費者は牛を飼う牧場ではこれが当たり前だと思っているかもしれない。だが、実際のところ日本ではほとんどが牛舎酪農であり、多くの牛は草地を自由に歩くことがない。ここは牧場長・中洞正氏が自らの理想である山地(やまち)酪農を実践する、日本では珍しい牧場なのだ。
中洞氏の酪農は、昨今急速に浸透してきた「エシカル(倫理的)消費」という考え方にもかなう。エシカル消費とは、環境や社会に配慮した製品やサービスを選んで消費すること。
その要素の1つに、人間のために犠牲になる動物の尊厳を重んじる、“アニマル・ウェルフェア(動物福祉あるいは家畜福祉)”という考え方がある。動物愛護の観点から、いっさい動物性食品は口にしないビーガン(VEGAN)も増えているが、世界中で人間に利用される動物の数は600億と言われ、その廃絶は困難だ。そこで、より現実的な考え方として打ち出されたのが、人間の動物の利用は可としながらも生き物としての尊厳に配慮するアニマル・ウェルフェアだ。なかほら牧場の酪農は、この考え方と本質的に一致している。
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