絶品「1本1100円の牛乳」は牛の幸福度が違う 酪農業界の常識を破る「なかほら牧場」の挑戦

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野シバのよさを語る、中洞正牧場長(筆者撮影)

なかほら牧場の酪農は、こうした従来の考え方とは一線を画す。牧場内では、約100頭の牛が自由に闊歩し、気の向くままに自生する草を食べ、夜も外で寝る。自然交配して人間の手を借りずに出産し、母牛が子牛を自分のお乳で育てる。とにかく自然任せが特徴だ。

山地酪農は国土の3分の2が森林で平地の少ない日本に適した酪農と中洞氏は主張する。荒れた山に牛を放てば、牛が草を食べて下草刈りの代わりとなり、森林の保全も容易となる。山地の名のとおり、牧場には草地ばかりでなく、山林も含まれる。

糞は牧場の至る所でするので、牛舎飼いだと面倒な糞尿処理もなく、そのまま山の肥料になる。牛は傾斜のある牧場を上り下りするため、足腰が強くなり、健康的だ。牛が踏み固めた土地には野シバが生え始め、それは牛のエサになるとともに地面に強く根を張り、保水力が高く美しい草地になっていく。

搾乳は朝夕の2度。どうやって牛を集めるのかというと、時間になれば搾乳場へ自ら牛が集まってくるという。搾乳時にはご褒美のエサがあるので、牛はそれを目当てにやってくるのだ。

乳脂肪分3.5%以下でも、ご当地牛乳グランプリ

穀物を与えず草だけで育てると、草の水分が増える夏になれば3.5%以上の脂肪分を維持するのは難しいが、健康な牛から搾る牛乳は、脂肪分が3%そこそこでも十分においしいという。白黒模様のホルスタイン種よりもコクのある牛乳を出すジャージー種であることもさらにおいしさにつながる。

「健康な牛からおいしい牛乳」が、なかほら牧場の酪農方針だ(筆者撮影)

さらに、殺菌方法にも工夫がある。日本の大手乳業メーカーでは120~150度で1~3秒という「超高温瞬間殺菌」が主流。この手法は効率的ではあるが、タンパク質を変性させやすく、焦げ臭が生じる。一方ここでは65度で30分間の「低温殺菌」にこだわっているため、牛乳本来のさわやかな風味が残る。こうした過程を経たなかほら牧場の牛乳は、2013年の「ご当地牛乳グランプリ」で見事「最高金賞」に選ばれた。

もっとも、効率的な生産方法とはほど遠い。配合飼料を与えた牛と比べ、1頭あたりの搾乳量は4分の1ほどだ。草を食べ尽くされないようにするため、放牧頭数にも限りがある。また、牛舎飼いの場合、子牛が母牛のお乳を飲むのは出産後5日間ほどの初乳だけ(生まれてすぐに引き離され、人間が与える)で、あとは代用乳(粉ミルク)を与えるが、なかほら牧場の場合、子牛は外で母牛と暮らし、その乳で育つ。ここでは「お乳は子牛のもの。人間はそのお裾分けをいただく」という考えなのだ。

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