絶品「1本1100円の牛乳」は牛の幸福度が違う 酪農業界の常識を破る「なかほら牧場」の挑戦
当然、牛乳の値段は吊り上がる。前述のとおり、なかほら牧場の牛乳は720mLで1100円(税別)と、市販の牛乳の8倍もの値がついている。この高い牛乳を、いったいどうやって売っているのだろうか。
中洞氏は、農協等との関係を断ち切って、自ら販路を模索する道を選んだ。そうして2005年にある投資家と手を組んだところ、あえなく失敗。牧場経営から手を引くことを考えるほどの窮地に陥った。
設備や販売で支援受け、百貨店やネットで人気に
そんなときに支援を名乗り出たのが、広告・インターネットなどの情報通信サービスを手掛ける株式会社リンクの岡田元治社長だ。中洞氏の経営理念に共鳴した岡田社長は、リンクの資金で牧場に牛乳殺菌・製品製造プラントを建設し、牛乳だけでなく、飲むヨーグルトやプリン、ソフトクリームなどの乳製品も開発した。牧場のホームページを作り、山地酪農の魅力を訴えた。販売はリンクが担い、東京や名古屋の百貨店に専門店を出すとともに、自社サイトやアマゾン、楽天などのインターネット販売にも力を入れた。
こうして、牛乳生産のプロであっても流通や販売のノウハウや手段を持たない中洞氏と、広告などで人や企業をブランディングしてきた岡田氏が手を結んだことで、この高額商品は売り上げを伸ばしてきたのだ。
農協の枠組みから抜け出ることによって、生産方針を自由に選択でき、また、価格決定権も維持できるが、その分コストはかさむ。現在は、牧場から遠い東京や名古屋の百貨店や、インターネットによる通信販売で高級品として販売し、なんとかコストを吸収している。そのため、生産方法はエシカルでも、流通・販売方法はそうとはいえないだろう。
そうした中、中洞氏が目指すのは、山地酪農を実践する若手の育成だ。現在、牧場に併設されている研修棟には年間300人の実習生が訪れ、数日から数カ月かけて、山地酪農を体験している。こうした教育は少しずつ実を結び、なかほら牧場の卒業生が運営している牧場は、熊本・島根・栃木・ 岩手・北海道と全国に広がり、2018年の春は神奈川でも開牧予定だ。
こうして山地酪農の輪が広がることで、各地域でより安く、安全でおいしいエシカルな乳製品が手に入る「地産地消」の時代が来ることを願ってやまない。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら