「神の雫」樹林伸氏が説くワイン会のススメ 異業種交流会に出るのは、ちょっと古い
樹林:もともとワインは結構好きだったんだけど、あるとき、DRC(注:ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティのこと、フランス・ブルゴーニュ地方のヴォーヌ・ロマネ村にある超有名ワイン醸造所)のエシェゾー(注:DRCの中にある500ヘクタール弱のピノ・ノワール種のブドウ畑)に出会い、これを飲んだ瞬間、ワインの虜になった。そこから手当たり次第、いろいろなワインを買い込んでいたら、あっという間に1000本を超えてしまった。
江連:1000本超!
樹林:でも、コレクションするだけではダメ。ワインは飲んでみないとわからない。
ワインは味よりも、イメージのほうが覚えやすい
江連:ワインって、香りや味わいからいろいろなイメージを広げて、それを表現しますよね。『神の雫』でも、「おお……お」なんて言いながら、「亜麻色の髪をした女性が佇(たたず)んでいる……」なんて、結構気障(きざ)な表現をするわけですが、樹林さんもワインを飲みながら、そんな会話をするのですか。
樹林:まあ、もう少し身近な表現をしますよ(笑)。たとえば、「このワインって、男? それとも女?」ってあたりから始まって、「女かな」となったら、次は「じゃあ、黒髪? それとも金髪?」とか、「肌色は白? 褐色?」というようにイメージを広げていく。味というよりも、イメージでワインを覚えていった。それが『神の雫』のセリフに生かされた部分はあるかもしれない。
江連:『神の雫』や、今回、上梓された『東京ワイン会ピープル』という小説で取り上げたワインは、どういう観点から選んだのですか。
樹林:自分がハマったワイン。『東京ワイン会ピープル』で取り上げたワインだと、第1話の「DRCエシェゾー2009年」は、自分がワインにハマるきっかけになったワインの年違いだし、第2話の「シャトー・マルゴー1981年」(注:シャトー・マルゴーはフランス・ボルドー地域の超有名生産者。ボルドーの5大シャトーの1つ)は、ヴィンテージチャート(注:ヴィンテージとはワインが造られた年を指す。同チャートは、ワインの品質を生産地区や生産年によって評価したもの。チャートの製作者によって、複数評価がある)が82点という平均的な数字なのに、飲んでみると、マルゴーらしいエレガントで美しいワインという印象が強かった。
1983年のほうが、ヴィンテージチャートは95点ではるかに高いのにね。あと、最終話で取り上げた「ドメーヌ・フルーロ・ラローズ・ル・モンラッシェ1991年」(注:ブルゴーニュ地区の生産者であるフルーロ・ラローズの最高級白ワイン銘柄<シャルドネ種>。なおシャトーもドメーヌも共に生産者を表すが、シャトーは主にボルドーで使われ、そのほかではドメーヌが使われる。ボルドーではシャトーそのものが格付けの対象となるのに対し、ブルゴーニュなどの地域では、どのドメーヌがどのワイン畑で造っているかも重要になる)は、ヴィンテージチャートが71点。1991年は白ワインにとって決してよい年ではなかったにもかかわらず、実にすばらしい出来だった。
これ、近所のおすし屋さんで開けたのだけど、グラスに注いだ瞬間、店中にものすごい香気が漂ってね。大将も飲みたがったくらい。だから点数にこだわる必要はないし、大事なのは、そのワインのイメージを表現できているかどうか、だと思う。
たとえば、『神の雫』に出てくる「12使徒」のうち、第1の使徒は、ジョルジュ・ルーミエ(注:ブルゴーニュの超人気ドメーヌ。同ドメーヌ産は世界中の愛好家が血眼になって探し求めるワインといわれる)の「レ・ザムルーズ2001年」(注:レ・ザムルーズは「恋人たち」の意味)にしたのだけど、世間の評価は、1996年、1999年のほうが高い。でも、自分にとってレ・ザムルーズっぽいのはどれかといえば、2001年だったということ。まだ『神の雫』のフランス語版も出る前だったんだけど、ジョルジュ・ルーミエの3代目である、クリストフ・ルーミエに会ったとき、「レ・ザムルーズっぽいのは何年?」と聞いたら、漫画のことなんか知るはずがないのに2001年だと言ってくれて。これは本当にうれしかったね。
江連:樹林さんは、「ワインにはなんといってもほかのお酒が絶対にかなわない、すごい効用がある」と常々おっしゃっています。
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