38歳、元阪神投手の公認会計士が悟った真実

高卒の元プロ野球選手、引退後の長い16年間

たとえば、投球練習の際は漫然と投げるよりも、9回の裏2アウト2、3塁、打者は大谷翔平選手で初球のアウトコースにボール1個分外したストレート。という明確な意図をもって投球練習するほうが効果は高い。受験の場合、問題を解くときに本試験会場で、試験時間残り5分、そこまでの手応えからして、この問題を正解できるか否かが合否を分けるかもしれない――といった状況を想定して、時間を計りながら解くほうが集中力も増すし、解くスピードと正確性を意識したトレーニングにもなる。

こうした考え方を取り入れたことで、自分に合った効果的な勉強スタイルが確立され、成績は飛躍的に伸びていった。2013年5月、再び短答式試験に合格した。そのままの勢いで8月の論文式試験に臨む。3日間最後まで諦めることなく全力を出しきったものの特段の手応えがあったわけではなかった。それでもふたを開けてみれば、冒頭にも記したように合格。当初は信じられない思いだったが、合格の喜びをようやくじわりと実感したのは、当時の会社の上司から「合格おめでとう」と電話がかかってきたときだった。

一時は野球が大嫌いになり自ら遠ざけようとしていた時期もあった。しかし今では、日本で初めてプロ野球選手から公認会計士になったことで、メディアからの取材や著書の刊行、講演の依頼など本業以外にも多岐にわたる仕事の機会をいただいている。何よりチームの垣根を越えて、本当にたくさんの選手や球団関係者とのご縁が広がった。公認会計士というまったく畑違いの資格によって、現役時代以上に野球界とのつながりが深まったのである。

そうなってみて感じるのは、長い人生の中で無駄な経験など何1つないということだ。高校生の頃に簿記の学習経験があったことが、プロ野球引退後に公認会計士という選択肢を与えてくれた。僕の場合は公認会計士であったが、一人一人の人生の中にはさまざまな可能性の種が転がっているはずだ。

野球以外にも可能性は広げることができる

「今まで野球しかしてきていないから、野球しかできない」。引退する選手がよく口にするフレーズだ。だが、決してそんなことはない。野球しかしてこなかったということは、野球以外のことができないことを証明するものではない。壁にぶつかったとき、すぐに無理だと決めつけ、自分の可能性を閉ざしてしまうのではなく、発想を転換し工夫することで、未来を切り開くことができる。スポーツ選手に限らず、誰でも自分の可能性を広げることはできるのだ。

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この経験や考え方を多くのアスリートやスポーツに関わる方々に知ってもらいたいという想いから、このほど、「一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構」を設立し代表理事に就任した。

「セカンドキャリア」から「デュアルキャリア」へ――。この法人では、講演・セミナー・執筆などの活動を通じて、現役中からアスリートとしてのキャリア形成と同時に引退後のキャリア形成にも取り組む「デュアルキャリア」という考え方の啓蒙を行っていく。

アスリートのキャリア形成の意識・考え方の変化を促し、これからの時代のスタンダードにしていきたい。

僕の経験が1人でも多くの方の、勇気を持って一歩を踏み出す“きっかけ”にしてもらえるよう、道なき道を歩き続けたいと思う。

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