北朝鮮で食べられている「人造肉」とは何物か 黄土色の帯状にされた「インジョコギ」とは?

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比較的若くて裕福な脱北者は、肉が豊富にあったが、冷蔵庫を使用するには電力供給が不安定なため季節が限られていたと語る。一般的なのは豚肉だが、犬やウサギ、アナグマも食べたという。

屋台を出したり片づけたりするその素早さから「グラスホッパーマーケット」として知られる一部の市場は今でも違法だが、国家に出店料を支払えば、自由に売り買いできる認可された公式の市場もある。

インジョコギのような創作料理も、こうした露店で売買される食べ物に含まれている。低カロリーだが、タンパク質や食物繊維が豊富であり、筋肉増強に役立ち、飢えをしのげる。韓国首都ソウルで栄養学の博士号を取得した北朝鮮惠山市出身のシェフ、Lee Ae-ranさんはそう指摘する。「タンパク質が豊富で、噛みごたえもある」という。

インジョコギのソースがまたおいしいと、前出の脱北者Choさんは言う。「海の近くに暮らす人は、ソースにカタクチイワシを刻んだものを使う。一方、地方の人はトウガラシを入れる。私は沿岸部に近かったので、刻んだイカナゴを入れていた」

脱北者のジャーナリストが運営する韓国の北朝鮮専門ネット新聞「デイリーNK」はジャンマダンを監視している。8月の報道によると、北朝鮮には計387の認可された公式市場があり、50万超の露店が存在する。国民500万人以上が「直接あるいは間接的」にこうした市場に依存しており、「生き残るために不可欠かつ不可逆的な手段として、北朝鮮社会に定着している」という。

ソウル大学のByung-yeon Kim教授が2015年に脱北者1017人を対象に実施した調査によると、PDSのような公的な食糧配給手段は国民の食糧摂取量のわずか23.5%を占めるにすぎなかった。回答者の約61%は、民間市場が最も重要な食糧供給源だと答え、残りの15.5%は自給自足と回答した。

つまり、公式な配給システムは多くの北朝鮮人にとってほとんど無意味である可能性がある。

平壌でピザ

他の国々のように、北朝鮮の富裕層には選ぶ自由がある。首都平壌の住民は、市内に数百件あるレストランからピザを注文することができると、定期的に同国を訪れる外国人たちは言う。

飲食店の多くは国有企業によって経営されている。一部の店は、かつては観光客向けだったが、今では北朝鮮人にも開放し、ドルやユーロといった外貨を稼ぐ店が増えているという。

例えば、「光復通りのイタリアン」として有名なレストランでは、住民も西側の観光客も料理の価格は同じで、ボンゴレパスタは3.5ドル(約400円)、ペパロニピザは10ドルとメニューにある。一方、市場では、トウモロコシは1キロ当たり30セント、インジョコギ1人前は50セントで売られている。

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