マラウィ、避難民35万人の厳しすぎる未来 イスラム武力衝突は現地に深い傷跡を残した

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筆者がもうひとつ強調しておきたいのは、マラウィの武力衝突とはまったく別のストーリーとして、当地最大のイスラム勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)とフィリピン政府によるミンダナオ和平プロセスが進行中であり、わが国が“日本にいちばん近いイスラム紛争”の終結と平和構築に大きな貢献をしてきたということだ(日本が貢献した「イスラム紛争終結」の舞台裏参照)。

マラウィの事件では「IS(イスラム国)系勢力がミンダナオ島を拠点化しようとしている」という報道ばかりが目立ち、より本質的なミンダナオ和平に向けた取り組みがかき消されてしまった感がある。確かにミンダナオ島あるいはフィリピンがイスラム過激思想の浸透の危機に直面しているのは事実だが、現地取材を重ねてきた感触から言うと、ミンダナオ本島にIS系の支配地域が確立される可能性は非常に低い。

戦闘は終結したが本当の戦いはこれから

国際テロ組織は不安定で貧しい国・地域に入り込むのを常とする。1970年代から紛争が続いて開発が遅れたミンダナオ島のイスラム地域バンサモロは、確かに狙われやすく、イスラム過激派残党の取り締まりやテロ警戒が重要なのは当然である。他方で中長期的には、バンサモロを政治的・経済的・社会的に安定させることを何より考えなければならない。

2度目の来日で安倍晋三首相と会談するドゥテルテ大統領=10月30日(フィリピン大統領府撮影)

地元ミンダナオ出身のドゥテルテ大統領の任期中(~2022年)に、イスラム勢力主導のバンサモロ自治政府を樹立する現行の和平プロセスを実現するとともに、1人当たりの国内総生産(GDP)がマニラ首都圏の15分の1と極端に貧しい同地域の経済開発を進める必要がある。最終的には、それがイスラム過激派を排除する最も有効な対策になるからだ。

戦闘は終結したが、本当の戦いはこれからである。マラウィの復興はミンダナオ和平のシンボルになるだろう。

中坪 央暁 ジャーナリスト

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なかつぼ ひろあき / Hiroaki Nakatsubo

毎日新聞ジャカルタ特派員、編集デスクを経て、国際協力分野の専門ジャーナリストとして南スーダン、ウガンダ北部、フィリピン・ミンダナオ島、ミャンマーのロヒンギャ問題など紛争・難民・平和構築の現地取材を続ける。このほか東ティモール独立、インドネシア・アチェ紛争、アフガニスタン紛争などをカバーし、オーストラリアの先住民アボリジニの村で暮らした経験もある。新聞や月刊総合誌、経済専門誌など執筆多数。

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