「後発だった」ナイキがトップになった理由 ABCマート社長「革新し続ける頑固者は最強」

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――御社と重なる部分はありましたか。

当社もはじめは輸入卸から始めましたが、その後Hawkinsというブランドの商標権を取得し、またVANSというブランドの代理店となり、メーカーとして成長しました。そういった背景から、小売業となった今でも自社で商品を開発しています。そんな企業の生い立ちが、当社の創業者である三木正浩と重なる部分は多くありました。

三木も「皆がやっているビジネスではダメだ。独自性ある商品を作らなくては」とよく言っていました。今では年間約1500万足の自社開発商品を製造しています。不屈の精神とかモノづくりへの貪欲さなどが似ていると思いましたね。特に、フィル・ナイトが日本、台湾、中国と工場を追い求めていくときのパワー感がかなり重なりました。

弊社はもともと韓国の工場で靴を作っていましたが、その後中国にシフトし、さらにミャンマーに工場を移動してきました。15年以上も前からミャンマーに進出しましたが、まだ靴工場などがミャンマーになかった頃で、韓国の工場を説得して移転しました。今ではミャンマーにも多くの外国企業が進出していますが、15年も前の話です。「次の生産地はミャンマーだ」と創業者が言ったときは、私も非常に驚きました。

実は自社製品を開発し自社店舗で販売するというのは、粗利益は高く見えますが、開発費、広告宣伝費がかかる。他社から物を仕入れて売るのと比べ、リスクと苦労に見合うほどの利益差があるかというと疑問があります。しかし、自分たちの売るべきものを自分たちで生産したいという三木の情熱があり、そうした情熱は今でも社内に息づいています。物を作って売るからこそ、わかることがたくさんあるのです。その情熱を引き継いだ私たち一期生が、いまABCマートの経営に当たっているのです。

仕事に向き合うスピリットの原点がここにある

――野口さんたちも、靴にすべてを捧げたシュードッグだということですね。

いえいえ、私はまだまだシュードッグには程遠い。シューパピー(仔犬)くらいでしょうか(笑)。

この本で強く印象に残った言葉があります。「ビジネスという言葉には違和感がある。私たちにとってビジネスとは、カネを稼ぐことではない。単に生きるだけではなく、他人がより充実した人生を送る手助けをするのだ。もしそれをビジネスと呼ぶならば、私をビジネスマンと呼んでくれて結構だ」。

こんな趣旨の記述がありましたよね。これを読んで、フィル・ナイトの生活そのものがビジネスになっているのだと感じました。私は、人は誰しも純粋なビジネス欲を持っていると思っています。生きていくための本能の1つとして。金儲けがしたいとか、ビジネスを成功させたいという欲でなく、知的な刺激と発見への欲とでも言うべきものです。

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