丸亀製麺の創始者が惚れた「晩杯屋」の稼ぎ方 客単価1300~1500円の超コスパ立ち飲み屋

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しかしトリドールHDと組めば調味料や調理油、粉類などの仕入れにもスケールメリットが出てきて、トータルで原価率を抑えることができます。また、晩杯屋の全国展開は確実に早まります。友好的なM&Aをお断りする理由が1つもなく、当社で最初にお会いしたときに私の腹は受け入れることに決まりました。2回目にトリドールHDの東京本社を訪ねた際、受け入れの意思を正式に伝えました。なお、新聞報道では買収金額10億円と書かれましたが、当社の株式の譲渡価格や譲渡比率は一切非公開です」

金子が残念に思っているのは、トリドールHD傘下に入ったことで親子上場となり、上場が遅れることだった。金子はいずれ、晩杯屋の経営がトリドールHDから独立していることを証明し、年数はかかっても上場に漕ぎ着けたいと考えている。

現在、晩杯屋はトリドールHDの店舗開発部隊と連携を進めている。トリドールHDの支援を得て、晩杯屋の全34店舗の立地、坪数、店舗・厨房レイアウト、注文方式、オペレーションなどを見直して、新しく「晩杯屋の最適モデル」を打ち出そうとしている。その場合、晩杯屋の創業の原点である駅前立地や繁華街などの小型店舗に回帰、10~20坪の「1軒目 晩杯屋」が誕生するかもしれない。

晩杯屋の最適モデルが決まれば、トリドールHDの店舗開発部隊による支援で「早期に全国500店舗展開」は見えてくる。

問題点は…

ただし店舗展開が早まり100店舗、200店舗のチェーンとなったとき、金子がこれまでのように鮮魚などのよい食材を安く大量に調達できるのかという問題は残る。人手不足感が強まる中での人材獲得・育成も課題だ。

金子の得意とするのはサンマ、サバ、アジなど漁獲量の多い大衆魚であり、天候異変や中国、韓国などとの争奪戦で安定的な調達が難しくなってきてはいるが、晩杯屋のチェーン展開に困るというほどでもないだろう。金子は晩杯屋の多店舗展開に備えて今まで以上に仲買人などとのパイプを太くし、「仕入れ力」「買う力」を高めることに集中する構えだ。

粟田は2025年にトリドールHDグループ全体で、「世界6000店、年商5000億円、外食世界トップ10ブランド」の目標を掲げている。現在、1265店(国内892、海外373、2017年10月16日現在)、年商1017億円(2017年3月期)。このうち国内は2000店を目指している。壮大すぎる目標ともいえ、ちょっとやそっとで実現できる規模ではない。

M&Aによって手に入れた晩杯屋の成功は、このトリドールHDが掲げる目標達成に必要不可欠だ。ハードルは低くないが、粟田と金子が描いているシナリオの実現性は否定できない。居酒屋市場に「晩杯屋旋風」が吹き荒れる予感がする。(敬称略)

中村 芳平 外食ジャーナリスト

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なかむら よしへい / Yoshihei Nakamura

1947年、群馬県生まれ。実家は「地酒の宿 中村屋」。早稲田大学卒。流通業界、編集プロダクション勤務、『週刊サンケイ』の契約記者などを経てフリーに。日刊ゲンダイの「語り部の経営者たち」にレギュラー執筆、ネット媒体「フードスタジアム」に「新・外食ウォーズ」、「ビジネスジャーナル」に「よくわかる外食戦争」などを連載。

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