ドル円相場を1985年のプラザ合意まで遡ると、相場のトレンドが大きく転換する局面では、ほぼ必ずといっていいほど、米国の意向が強く反映されていることが見て取れる。少々乱暴な表現をすれば、ドル円相場の長期トレンドは米国の都合で形成されてきたといえるかもしれない。
この間、日本は介入以外、明確な為替政策を打つ術を持たなかった。円高・円安の良し悪しは企業によって異なることもあり、為替に関わる当局者の発言にも一貫性がなかった。たとえば2008年、リーマンショックによって円全面高となった際に、当時の藤井裕久財務大臣が「一般論として日本は基本的に円高がよい」「円高のよさは非常にある」などと発言し、90円割れまで一段とドル安・円高が進行したこともあった。
しかしその後、2012年11月15日、安倍自民党総裁(当時)はスピーチで、長引く円高とデフレに懸念を示したうえで「一番いいのはインフレ目標を持つこと」「この達成のために無制限に緩和することで初めて市場は反応していく」と述べた。これを受けて円が急落するなど、「アベノミクス=円安」の公式はここからスタートした。
未だに2%のインフレターゲットを達成できていないことや、2015年に一時は125円台まで上昇したドル円も今や112円台まで円高となっている現実を踏まえれば、「アベノミクス=円安」の公式も相当程度効力が薄れているといえよう。政策自体への賛否も別れるところではある。
続投でも円安は1円、政権交代なら2~3円の円高に
しかし、「円高・デフレ」が問題だと明言し、これを断ち切るための対策を示し、日銀が大胆に実行したことで、スピーチ時点の1ドル=80円という超円高からの脱却を果たしたことは為替介入以外の日本政府主導のトレンド転換という意味で、初めての事象といえるのではないか。おそらく、そのイメージはまだ色濃く市場参加者に残っている可能性が高く、安倍政権続投となれば、直後は円安が進行しよう。
ただし、直近2014年の衆院選では、与党が3分の2議席以上獲得したにも関わらず、3カ月で3円程度の円安・ドル高にとどまった。これを踏まえれば、獲得議席数や国外の経済情勢にもよるが、今回の衆院選で安倍政権続投の場合、円安幅は選挙後1カ月間で約1円程度、反対に政権交代となれば、比較的大幅に円高となる公算が大きい。同期間で2~3円程度円高に振れるイメージである。
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