社員たちは、その私の目標設定をどう感じたかはわかりませんが、その年度はスタート時点から明らかに様子が変わっていました。社員はそれぞれ相変わらず懸命に仕事に取り組んでくれています。前年と変わりなく、力を出していることは伝わってきます。
ところが、その社員の懸命な努力が、前年までのような成果に結びつかないのです。なにか、上滑りしている。走っている車のタイヤがスリップするような感じといえばいいのでしょうか。
当然、毎月の計画比が100を切る。このままでは、目標の「前年度横ばい」どころではなくなる。そこで、年度後半になって、さまざまな手を打ちました。結果的には、極めてわずかの上澄みでかろうじて目標を達成できましたが冷や汗ものでした。
なんとかなってよかったのですが、この経験から、「現状でよし」という目標を提示すれば、その目標が達成されることはおぼつかないということをはじめて理解しました。あのまま手を打たずに放置すれば、せっかくのそれまでの社員の汗は空回りし、以降ずるずると滑り落ち、PHP研究所は「元の木阿弥」になっていたかもしれないと思います。
もちろん、家族経営の会社であれば、それでも構わないかもしれません。零細企業などでは、家族の生活費確保を目的としている経営もあります。一定以上の規模になれば、番頭格の人をのれん分けという形で独立させていくような経営もあります。おおむね、老舗と言われるお店は料亭と言わず、菓子舗と言わず、いわゆる個人経営の会社は、規模を大きくすることをよしとせず、現状を維持することに徹する傾向があります。そのような経営もありますから、現状維持ということも1つの経営手法として、否定するものではありません。
しかし、ここでは多くの従業員が働く大企業について考えています。
年々、成長目標を提示することの重要性
「会社を成長させたい」「充実させていきたい」と思うのであれば、社員の汗を無駄にさせないためにも、年々、成長目標を提示することは極めて重要なことだと思います。
成長目標は、売り上げなどの量的目標に限りません。掲げる目標は「1人当たり利益」のような効率指標でもいいでしょう。商品の品質向上、事業内容の充実、新規事業への挑戦といった質的目標でもいいでしょう。
会社が大きくなってくると、いろいろと社内的にも、あるいは対外的にも、複雑かつ煩わしくなってきます。お客様からの厳しいクレームも多くなり、資金繰りにも大きく振り回されるようになります。そのようなことで、現状維持が精いっぱいということになり、もうこれ以上は、拡大も成長もしなくてもいいので穏やかに過ごしたい、というふうに思ってしまいがちです。なんとか現状を維持できればそれでいいと考えてしまう経営者は本当に多いのです。
しかし、そのように考えて経営を切り替えた途端、まず間違いなく坂道を転げ落ちることになるでしょう。会社を現状維持するということは、社員の給料も現状維持ということになります。給料以外の待遇を向上させることも不可能になります。あるいは待遇を引き下げる必要も出てくる。そうなると新人の雇用も抑えざるをえなくなる。社内の雰囲気も暗くなり、多くの社員がやる気を失います。
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