「現状維持」を掲げる会社が必ず崩壊するワケ 目標を「横ばい」とした途端に会社は終わる

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そうなると、せっかく取引していたお客様も離れていってしまう。売り上げも落日のごとく落ちてくる。赤字に転落して社員の給料も待遇も下げざるをえない。活躍してくれていた優秀な社員が、辞めていくようになる。

辞めていくのは、真面目で優秀な人たちです。このような経営状況になると、優秀な社員から辞めていくのが普通です。優秀な人材は、他社でも有為な人材として喜んで迎えられるからです。ならば、彼・彼女に代わるべき優秀な人材を募集しようとしても、縮小している会社、雰囲気が悪い会社、給料が上がらない会社に応募してくるはずもありません。中途採用の人材が優秀でないとなれば、企業は人なりですから、ますます衰退の一途ということになります。

さらに、そのようになれば、もう、よい商品を作り続けることも、新しいサービスを充実させることにも目が回らなくなります。それだけでなく、金融機関も融資をためらうようになり、経営危機に陥ります。

成長することで優秀な人材が集まる

ですから、現状維持ではなく、年々高い目標を設定していく必要があるのです。それによって、社員も汗を流しながらやりがいをもって、やる気を出し、成果を挙げる。成果を挙げれば、それが自分たちの待遇改善として跳ね返ってくる。跳ね返ってくるから、ますますやりがいが出てくる。次々によい商品、よいサービスが生まれるようになる。

そうなればブランド力がつく。ブランドが確立すれば、優秀な人材がおのずと集まってくる。集まってくれば、経営者は、方針さえ明確に出しておけば、彼ら優秀な人材、社員たちが自主的に、積極的に「手柄」を立ててくれるようになる。そうなれば、経営者は社員の後ろに立ち、全体を俯瞰的に見ながら経営を展開していけばいいのです。

気分的な余裕もできますから、「次なる経営展開」の余裕も出てきます。当然、社員の待遇も改善できる。会社はおのずと活況を呈してくる。営業もやりやすくなる。営業マンも、営業が面白くて仕方がないということになります。

最近でもこのようなことがありました。約70年ほど続くある会社が、7年ほど前、それまでの成長発展戦略をやめて、「もうここらあたりでいいだろう。成長拡大ではなく、現状維持でいい。普通の会社になろう」と新社長が社員に指示したそうです。この「普通の会社宣言」で、社員はほっとすると同時に気が抜けた精神状態になったようです。新社長は、社員の懸命さを哀れと思ったのでしょうか。あるいは、やさしさ(?)を示すことによって、社員の心を引こうと思ったのでしょうか。

黒字であったその会社は、その直後にあっという間に赤字に転落。以降、回復するどころか、今日に至るまで衰退の一途。社員の給料は大幅に減額され、事業縮小のスパイラルは止まっていません。

繰り返しになりますが、「現状維持は、縮小衰退を意味すること」を、経営者も社員も心しておきましょう。昨年より今年、今年より来年というように、着実に量的、あるいは質的な成長をする目標を立て、それを明確にする必要があるのです。そのことが、社員のやりがい、社員のやる気を引き出す「源泉」であることを、経営者は、よくよく心にとどめておくべきではないかと思います。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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