日本の美術館には、一体何が欠けているのか 欧米で当たり前にやっていることとは?

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大林:では、日本国内の国立美術館も見ていきましょう。国立美術館は5つあり、すべて独立行政法人国立美術館が運営しています。東京国立近代美術館京都国立近代美術館国立西洋美術館国立国際美術館、そして国立新美術館の5館で、合計すると、約4万点以上の所蔵があり、年間400万人の来場者があります。年間予算は128億円。内訳は展示事業収入が約12億円、寄付金収入が6億5000万円です。さらに、運営費交付金として国から75億円と施設整備費補助金として35億円が支払われ、運営が成り立っている状況です。

野尻:128億円の収入のうち、国からの運営交付金が75億円もある。結構な額ですね。

大林:確かに少なくはないですが、それよりも、寄付金収入が5館合計で6億5000万円とは、極めて少ないですね。

日本には国立西洋美術館など国立の美術館は5つある。欧米に比べ、寄付金収入が少ないなど、運営の改善はまだまだできそうだ(写真:のびー/PIXTA)

海外の美術館長のいちばん重要な仕事は「資金集め」

野尻:海外では財団が丸抱えに近い状態で運営している美術館もあると思いますが、収益を上げるのに来館者数というのは連動するものなのですか?

大林:運営資金を入館料だけで賄うというのはかなり難しいと思いますね。キュレーター(展覧会などを企画する学芸員)や修復スタッフなど、美術館は多くのスタッフを必要としていますから。ですから海外の美術館では、館長さんのいちばん大事な仕事はいかに多くの資金を集めるか、です。

お金持ちの所に足しげく通うし、世界中のコレクターを美術館の理事会や国内の評議員会やインターナショナルカウンシル(国際評議員会、海外在住の人物が中心)のメンバーに加えて、一生懸命巻き込んでいこうとします。面白いのは、そういう重要人物の配偶者(主に奥様たち)にも非常に手厚いフォローをしていること。女性は男性よりも長生きですから、ご主人が亡くなったらそのコレクションを寄付してもらおうという狙いです(笑)。

木下:しっかりしてますね(笑)。

大林:実にしっかりしています。そこには寄付に対する考え方や文化の違いがあります。また税制の違いもある。でもいちばん違うのは館長さんの努力です。日本では、民間の美術館の中にはそういう取り組みをしているところも見受けられますが、公立の美術館では見掛けません。その代わり、「何人来場したか」ということには、ものすごくこだわるんですね。

野尻:僕らも、「何万人来ました」なんて言われると、ついその数字に踊らされちゃいますよね。

大林:館全体の品質やマネジメントで評価されるべきでしょうね。もちろん、それに準ずるような動員を実現する努力もしなきゃいけないんだと思います。

馬場 正尊(ばば まさたか)/株式会社オープン・エー代表取締役。東北芸術工科大学教授。建築家。1968年佐賀生まれ。博報堂などを経て、2003年Open A Ltd.設立。都市の空地を発見するサイト「東京R不動産」を運営。東京の日本橋や神田の空きビルを時限的にギャラリーにするイベント、CET(Central East Tokyo)のディレクターなども務め、建築設計を基軸にしながら、メディアや不動産などを横断する活動をしている。2015年「公共R不動産」開始

木下:国から75億円もらってもいいけれど、だったらさらにそれと同額の75億円くらいを目指してファンドレイジング(資金集め)するような努力もしてほしいです。

馬場:公的な美術館の館長って、役人の天下りだったりすることもある。だとすると、ファンドレイジングのための営業なんて、絶対にできそうもないですよね。そこをどうにかしないといけないと思う。民間出身の人で、美術館の館長をやってみたいという人だってたくさんいると思いますけどね。

大林:それから美術館の理事会なり評議員会なり、あるいはインターナショナルカウンシルに、どれだけ地元の人を巻き込むかも重要です。地元の名士の方は、最初はそんな役職に就くことを「面倒くさいな」と思っていても、やっていくうちにだんだん美術館への愛着が湧いてくるものです。そういう地元からの支えも大切です。どうも日本の公的美術館は地元と疎遠で、「そういうことはお上がやることだ」と思っているフシがある。

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