日本の美術館には、一体何が欠けているのか 欧米で当たり前にやっていることとは?

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――次もリノベーションされた事例です。アメリカ・テキサス州にあるチナティ・ファウンデーションは、アーティストであるドナルド・ジャッドが軍用施設をリノベーションして設立したものです。大型のインスタレーション作品を常設展示するための美術館で、敷地は1.4平方キロメートル(東京ドーム約30個分)あります。インスタレーション作品とは、オブジェだけでなく、取り囲む環境や風景なども含めてその空間全体をアートと見なす手法です。

軍用施設をリノベーションしてできたチナティ・ファウンデーション(写真:大林剛郎氏提供)

また、リノベーション物件ではありませんが、映画『ナイトミュージアム』の舞台となったアメリカの国立自然史博物館の取り組みも紹介します。ここでは子ども限定で館内宿泊ツアーを行っています。事前予約の必要がありますが、夕方から博物館内を見学した後は、大きなクジラが展示されているスペースで寝床に就くというもので、大変な人気を呼んでいます。

軍用施設のリノベから発展、街にもにぎわい

木下 斉(きのした ひとし)/一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス 代表理事。1982年東京生まれ。高校在学中に全国商店街合同出資会社の社長就任。一橋大学大学院商学研究科修士課程在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2007年熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地で「まち会社」へ投資、設立支援を開始。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス設立。内閣官房地域活性化伝道師なども務める

大林:私もテキサス州のチナティ・ファウンデーションには何度か行っていますが、近くにちゃんとした飛行場がなくて、僕の場合はラスベガスから大勢で、チャーターフライトで行きました。そのくらい辺鄙(へんぴ)なところにあります。

もともとドナルド・ジャッドはDIA美術財団(ニューヨーク郊外にある現代美術館「ディア・ビーコン」を設立したことで知られる芸術財団)の展示の中で活動するアーティストだったのですが、既存の展示手法に飽き足らなくなり、自分で美術館を手掛けたくなった。なので、ここでは彼が思い描いたとおりに展示されています。

野尻:今回、事務局が用意してくれた資料を事前に見ていて、いちばんインスピレーションを受けたのがこの施設でした。ぜひ行ってみたくなりました。

大林:行くのは大変です。いちばん近い空港からでも、車で3時間ほどかかりますからね。でも行く価値は十分にありますよ。

野尻 佳孝(のじり よしたか)/株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 代表取締役会長。1972年東京生まれ。1998年に独立しテイクアンドギヴ・ニーズを設立。2001年に株式上場、2006年東証1部。CSV(共通価値創造)経営を標榜、2017年3月に「ソーシャライジング」という新しい社会貢献をうたった、斬新なスタイルのホテル「TRUNK」を東京に開業

木下:実は、日本国内にも第2次世界大戦中に使っていた軍用施設がたくさんあって、戦後も自治体などによって管理されているのですが、管理している側の自治体は苦労していて、最近は「放出しようか」という話も出てきています。するとワイン貯蔵庫に、なんていう話になりがちなのですが、もう少し人が集まるような施設にしてもいいんじゃないかという意見も出ています。

馬場:現代美術なんかは、本当に似合いますよね。

大林:チナティ・ファウンデーションも、もともとはジャッドを含め、3人のアーティストを核とした常設展示をしていましたが、その後、常設展示は10人以上に広がり、全米を代表する美術の一大聖地となりました。アーティスト・イン・レジデンス・プログラム(アーティストを一定期間住まわせ、作品を制作してもらうこと)や地元コミュニティ向けのキッズ・アートキャンプなども行われています。美術館があるテキサス州マーファは、エリザベス・テーラーと、ジェームズ・ディーンが出演した映画『ジャイアンツ』の撮影地としても有名ですが、人がどんどん集まるようになって、この10年ほどで街もずいぶんと変わったそうです。

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