日本の美術館には、一体何が欠けているのか 欧米で当たり前にやっていることとは?
――国内の他の美術館の事例も紹介します。東京・墨田区にある「すみだ北斎美術館」は、民間から5億円以上の寄付を集めて作られました。運営は指定管理者の墨田区文化振興財団と丹青社の共同事業体で、指定管理料は4500万円。墨田区の年間運営費は1億6000万円となっています。
続いて紹介するのは石川県の「金沢21世紀美術館」です。現在美術収蔵の新しいモデルとして期待されています。2004年開館の市立美術館ですが、兼六園に隣接し、市の中心部に位置しています。2016年には225万人という過去最高の来場者がありました。無料で公開されている部分が広く、市民に愛される美術館として有名です。
大林:金沢21世紀美術館は小中高生の入館料を無料にしています。子どもを無料にしても、連れてくる親から入館料はもらえますし、子どもたちが大きくなったときに幼い頃に見たアートを好きになってくれる。そういう効果もある。ですから子どもをどう美術館に連れてくるかというのは、数十年計画で取り組むべきテーマだと思いますね。
野尻:実は数週間前、僕も息子を連れて行ってきましたけど、グッズをいっぱい買わされました(笑)。それに子どもが無料で行けるところが本当にたくさんあってびっくりしました。
大林:先ほどのアメリカの自然史博物館もそうですが、子どもにとって博物館に泊まったり美術館で作品に触れ合ったりするのは最高に楽しい経験になります。そのためにも、欧米の美術館は子どもたち向けにアートを解説するキュレーターへの教育が非常に進んでいます。日本はそこではだいぶ遅れていますね。
「保存」にこだわらず、「使って集客する」という発想を
――最後に、国内の未活用事例も紹介します。神奈川県立近代美術館の鎌倉館です。建物は坂倉準三設計のモダニズム建築の傑作で、1951年に開館しましたが、老朽化と耐震性の問題により2016年1月末に閉鎖されました。敷地を所有する鶴岡八幡宮との賃借契約も満了となったため、現在建物は鶴岡八幡宮に無償譲渡されています。今後の活用についてはこれから検討されることになっています。
大林:日本と欧米とでは、保存についての考え方がずいぶん違うんですね。日本は相対的に歴史が浅いものでも「保存する」となったら徹底的に保存しようとする。でも欧米では、そこそこ歴史のある立派な建築であっても、思い切って手を入れている。外観とイメージは壊さないで、中は思い切って変えているんですね。単に「保存する」ということではなく、「どう使うか」がポイントになっている。日本でももう少し楽しく使おうという気風が出てきたほうがいいと思いますね。
野尻:日本は原則「Don’t Touch」。それに対して、海外では、用意周到に「冒険」して、使っていますよね。
大林:この鎌倉館は坂倉先生の名建築なので、今後ぜひ使ってもらいたいですね。
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