少年Hを見て考える、異端狩りの危険 自分を見失わない、主体性のある子供を育てよう

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<パンプキンからのコメント>

みんなが同じことを言う世相は怖い

今年の夏の邦画界は、「少年H」の話題で持ちきりでした。舞台美術家、妹尾河童氏の自伝的小説の映画化ですが、妹尾氏は、映画では氏の訴えたかったことが伝わらないと、長く、この本の映画化を拒み続けられておられたそうです。監督は「ホタル」「鉄道員(ぽっぽや)」の降旗康男氏。

偶然ですが、ちょうど私が今読みかけている本に、筑紫哲也氏の1999年の夏に書かれたエッセイがあり、「少年H」を再読された章を読んだところでした。筑紫氏がこの本をその年に再読された理由は、〈今、新たな戦前が始まろうとしているという声が聞かれる時、それではそのひとつ前の「戦前」はどういうものだったのか、そしてそれはどうやって「戦中」に入っていったのかを知る上で、『少年H』は興味深い一書〉だったからだそうです。

少年Hは皆が「負けるはずがないこの戦争」をおかしいと思い口にするので、先生からも目の敵にされます。その当時としてはやや異端な少年が目撃した戦前の状況を、筑紫氏は1999年の時点で類似点が多いと書いておられます。

変化は急にやってくるのではなく、ほんの小さなことからじわりじわりと変わって行き、ついには「非常時」に突入した。そしてそのような移行(戦争)を多くの人が心底では望んでいないのに、抵抗する動きは微弱。少年Hの「みんな同じことを言うのは怖いなぁ」というつぶやきまで、今日性があると言っておられます。

洗脳は、上からも横からも襲い掛かってくる

筑紫さんが警鐘を出されてから14年。ここではいったん「戦争」から話題を外すとしても、世の中はますます「赤信号、みんなで渡れば怖くない」、あるいは「とりあえず勝ち馬に乗った」人たちで、動いているように見えます。

有名でないタレントの離婚でも、どの局のワイドショーも数日間、その話題で持ちきりですし、問題を起こした政治家が絆創膏を張っただけでも全テレビ局は、絆創膏の謎を追いかけ回し、報道は止みませんでした。集団リンチ事件や集団によるイジメでは、その集団に加わらないと自分がやられたから、といった証言が必ず出てきます。

筑紫氏はサッチー騒動を挙げて、ひとつの見方による情報を与えられて人々を“洗脳状態”に置くのは、必ずしも上からの強制とは限らず、異端狩りに目の色を変える横からの圧力の危険性を指摘しておられます。自分の意見を持たず、「とりあえず長いものに巻かれておこう」とする生き方が、結果的には、悪意がなくとも加害者となってしまう例には、私たちは事欠きません。

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