小池百合子の「凄み」はストーリーを語る力だ

ファクトがないときの最強弁法を知っている

ある時、筆者は「『外国人投資家に、あなたたちの説明は意味がわからない』と言われたので、グローバルに伝わるプレゼンを教えてほしい」という要望で、日本の超大手メーカーの幹部会議に講義に行った。その会社の資料は、とにかく文字だらけ。投影すれば、ありんこかと思うほどの読めない文字と数字がぎっしりと並んでいる。そして、その内容を読み上げるだけのプレゼン。「人はロジックでは動きません」。筆者の言葉に、幹部の1人にこう言い切った。「わが社ではロジックこそが重要なのです」。

確かにコンマ1mmの精度を競い合う日本のものづくりカルチャーにおいては、そうしたハードファクトは意味があることなのだろう。しかし、同じ言語と思考形式を持つ集団の中では通用しても、多種多様な価値観が交じり合う現代のオーディエンスの心を揺さぶることは難しい。ロジックだけでは、納得まではできても、説得まではできないのである。

小池氏は、「人はロジック(理)では動かない、エモーション(情)で動く」ことを熟知している。だから、ストーリーを使うのだ。人間はストーリーが大好きな生き物である。書き言葉がない時代から、人は例え話や物語にして、口伝で後世にその教訓を伝えた。映画や小説が、論文より面白いのは「ストーリー」があるからだ。ストーリーは人の脳内ホルモンを活性化させ、感情をかき立てる。小池氏の痛快アクションストーリーの筋書きはこんな感じだ。

制裁欲求が満たされない人々の「声」になる

時の権力者はなかなかのやり手である。停滞する経済の中で、次々と大胆な政策を打ち出し、少しずつ成果も表れてきた。しかし、権力とは腐敗するものである。周囲には彼の威を借りる人間があふれ、おごりやたかぶりが目に余るようになる。
彼の妻はその地位を利用して、次々と怪しげな人脈をつくり、かかわりを深めていく。彼はそんな彼女も周囲の人間をいさめることも、自らの否について真剣に詫びることない。
そうした「慢心」ぶりに女主人公は立ち上がる。組織を脱し、たった1人で反旗をひるがえしたかと思うと、次々に、仲間を増やし、アドベンチャーゲームよろしく、敵を末端からバッタバッタと倒して、話を盛り上げていく。そして、いよいよ、その権力者と直接対峙のときを迎える。さあ、戦いの決着やいかに?

 

場面転換はスピーディで、見ている人ははらはら、ドキドキしながら、まったく飽きることがない。ふてぶてしく、おごりたかぶって見える権力者たちを「既得権にしがみつく」「変革を拒む」とレッテルを貼って悪役に仕立て上げ、「私がお仕置きしてあげる」と大見得を切る。そうやって、人間の制裁欲求に応え、シャーデンフロイデ(他人の不幸や失敗を喜ぶ気持ち)を刺激する。人々は、映画で悪役が倒されたときに味わう「ざまあみろ」という胸のすく感覚を本能的に求めているのだ。

「悪者を作る」「自分をヒーローにする」、そして、制裁欲求が満たされない人々の「声」になる……。これらはすべてトランプの使った手法そのものだ。ファクトよりもストーリーこそが響く。これは、語れるほどの「ファクト」がほとんどない小池氏にとっては逆に都合がいい。

確かに、経済は数値的には少し上向いているかもしれない。でも、問題は人々に「実感」がないことだ。感覚として、その恩恵を感じることができていない。例え、瞬間風速的に回復したからといって、本質的な「絶望感」や「閉塞感」は変わらない。

そこに小池氏は「希望」という、ふわふわしながらも、感情を喚起するような言葉を持ってきた。希望=Hopeはバラク・オバマ前米大統領もよく演説で使った言葉で、安倍晋三首相も海外向けのスピーチなどで用いていたが、党名にちゃっかり入れるあたりは、小池氏のほうが一枚も二枚も上手なのだ。

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