小池百合子の「凄み」はストーリーを語る力だ

ファクトがないときの最強弁法を知っている

小池氏の戦略でもう1つ特徴的なのは「徹底的なビジュアル重視」だ。候補者のビジュアルからロゴのデザイン、そして、立ち上げの際の動画など、視覚や聴覚に訴えるコミュニケーションの訴求力が圧倒的に高いことをよくわかっている。

英語にShow, don't tell という言葉がある。米国の学校で徹底的にたたき込まれるものだが、直訳すると「話すな、見せろ」ということだ。聞き手の頭の中にイメージが湧くような言葉を使え、ということなのだが、たとえば、「驚いた」ではなく「あっと息をのんだ」、「不安そう」ではなく「組んだ手がガタガタと震えている」といったような言葉を使うことで、情景がビビッドに、浮かぶようになる。聞き手の脳に「絵を描き出す」手法だ。

小池氏は徹底的に「わかりやすさ」「見えやすさ」にこだわる。だから、わかりにくい複雑な政策の話などいっさいしない。「電柱の地中化」「五輪のボランティアのユニフォームのデザイン変更」などに、なぜこだわるかと言えば、聞き手が頭の中に絵を描きやすいからだ。

「原発ゼロ」「消費税凍結」など、瞬間的に理解できるアジェンダばかり俎上に上げるのは、人は自分が聞きたいことしか受け入れない生き物であることを知っているからだ。だから、小池氏は支持者が「聴きたいことしか聞かせない」。それは同時に、極端な大衆迎合主義の危険性をはらんでいる。

受けて立つ安倍首相のコミュ力は?

では、小池氏の挑戦を受けて立つ安倍首相のコミュ力はいかなるものか。その政治手法や主義はさておき、伝えようとする意欲という意味においては、実は最近の宰相の中でもとりわけ高い。そういった隠れた努力が、近年まれな長期政権を可能にしてきた一因ではないかと筆者は考えている。「アベノミクス」「三本の矢」「一億総活躍社会」など、その出来はともかくとして、耳目を引き、人の記憶に残るネーミングであったことは事実だ。

その強みは特に、外交の場でのスピーチにおいて発揮される。一昨年4月の米議会でのスピーチなど、国際舞台での場数を踏んできた安倍首相。今年9月にロシアで開かれた東方経済フォーラムでは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領や韓国の文在寅大統領が、原稿を読み上げるだけの味気ないスピーチだったのに対し、聴衆の琴線に触れる、情感を呼ぶストーリーや、聴衆に呼びかけるシーンなども盛り込み、会場を沸かせた。

同月のニューヨーク証券取引所でのスピーチでは、大リーグのヤンキーズのアーロン・ジャッジ選手の活躍からブルックリンの虹色のベーグルの話まで、身近な話題をたっぷりと盛り込み、最後には、マイケル・ジョーダンの「私は失敗を受け入れる。誰でも何かにつまずく。ただ、私はチャレンジすることをあきらめることはできない」という言葉を引用し、日本経済の再生への決意を力強く語った。こうしたコミュニケーションの陰にあるのは、傑出したスピーチライティングのプロの存在だ。明らかに、「官僚の作文」とは一線を画した内容で、アメリカメディアにもポジティブに取り上げられるほどだった。

安倍氏は場数を経て、2012年の2度目の総理就任時から比べるとはるかに自信に満ち、堂々とした話し方が板についた印象だが、残念ながら、国内においては、そうした側面を生かしきれていない。特に、森友・加計問題に対しての謝罪や説明が十分ではなく、「おごった」イメージに見られてしまったのはマイナスだった。

力強く訴えかける手法は、有事にリーダーシップを見せる場面では有効だが、「守り」に回るべき場面で感情的に怒っているように話すと、「開き直っている」ようにとられてしまう。リーダーは、時に力強く、特にソフトに、そして謙虚に、と「硬軟」を織り交ぜたコミュニケーションが求められるのだ。

コミュ力に対抗するのは、コミュ力でしかない。どの候補者も、どの党も、「詭弁だ」「欺瞞だ」「劇場型だ」と、敵を批判することに終始するのではなく、真に自分たちのメッセージが伝わり、理解されているのかを、きっちりと検証する必要がある。名前を連呼し、ただひたすら「絶叫」するだけの時代では、もうないのだから。

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