「セックスは善」を世界に普及させた男の偉業 享年91、プレイボーイ創刊者は桁違いだった

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ヘフナーは、その規範に窮屈さを感じていた若い男性のために、都会的なライフスタイルを提示しようとした。彼が中心に据えたトピックは当時の一般的な男らしさとは無縁だった文学はじめ、絵画やジャズ音楽、ファッション、旅行など。『プレイボーイ』の世界では、洒落た部屋で謎の美女と哲学が語られ、カクテルが作られた。

雑誌のもうひとつのコンセプトは、性を自然で美しいものととらえ、タブーなしにとりあげることだった。いまからは考えにくいが、当時のメディアではセックスを示唆することさえタブーだった。

彼自身もキリスト教的な道徳観のなかで育ち、最初の恋人とは大学卒業までプラトニックな関係を続け、ほどなく結婚。のちに映画『市民ケーン』の主人公にも例えられる華麗なるメディア王も、創刊当初はごく普通の地味な生活を送っていたのである。

だがヘフナーは、セックスを善と捉えた。恥でも罪悪でもなく、健全で素晴らしい創造の源泉と考えた。

創刊3年目に100万部を突破

『プレイボーイ』は、都会的で上質な生活情報を美しいヌード写真と組み合わせたことで熱狂的に受け入れられ、創刊からわずか3年目にして月間100万部を突破し全米一の男性誌となる。

1950年代のヒュー・ヘフナー(写真:Everett Collection/アフロ)

一方、おおっぴらな性の礼賛は、従来の宗教道徳からすれば受け入れ難いものであり、創刊10年後の1963年、ヘフナーはわいせつ物発行の容疑で起訴される。容疑は棄却されたが、これは伝統的な規範に挑むヘフナーへの絶え間ない嫌がらせの一つにすぎなかった。

先日、筆者は1964年版の『プレイボーイ』誌を手にしたのだが、エッチな雑誌というイメージに反して、文字が小さくぎっしりつまった『ニューヨーカー』誌のようなストイックな誌面に面食らった。半世紀前の雑誌とあってひどくカビ臭いほかには、今日的な感覚からすれば、卑猥さも、おばかさもなかったように思う。それにもかかわらず、保守的な人々に強い嫌悪感を持たれていたのである。

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