今年5月、ジョン・アイケンベリー教授(米国プリンストン大学)は外交専門誌”Foreign Affairs”に寄稿して、「国際秩序を守る試みは、日本の安倍晋三とドイツのアンゲラ・メルケルという2人の指導者の肩に懸っている」と喝破した。ドナルド・トランプ大統領の暴虐によって、自由な国際秩序は危機に瀕している。リベラル派の良心と呼ばれる国際政治学者は、そのことを憂えて日本とドイツの両首相にラブコールを送ったのである。
「小池」「前原」から返し技を食らった安倍首相
ところがその日本とドイツの政治が今月、相次いでトラブルに見舞われている。
9月24日に行われたドイツの総選挙は、メルケル首相率いるCDU・CSUが順当に勝利した。しかしよく見れば得票率は4年前よりも減っているし、さらに大きく減らした社会民主党は早々に連立からの離脱を宣言した。しかも極右政党「ドイツのための選択」が大躍進しているので、今後の連立工作には思い切り苦労しそうである。
そして日本では安倍晋三首相が、9月28日に招集した臨時国会で「冒頭解散」という技を繰り出したところ、小池百合子都知事から「『希望の党』の立ち上げ」、前原誠司代表から「民進党の解党・合流」という返し技を食らってしまった。いわば「大義なき解散」が、「大義なき国政進出」と「大義なき解党・合流」というツープラトンの逆襲を受けた形である。
なにより「安全勝ち」を目指した安倍首相の一手が裏目に出て、かえって尻に火がついているからショックは深い。今春、英国のテリーザ・メイ首相が「ブレグジットに対する国民の信を問う」と訴えて、自信満々で解散に打って出てものの、保守党が見事に過半数割れしてしまったことと微妙に重なって見える。
海外の投資家の中には、これまで「日本市場はリターンが低いが、政治が安定しているから買える」と考えていた向きが少なくない。日本市場は海外経済や地政学リスクなどの外的要因には左右されやすいが、国内的な不透明性は低い。つまり「安定した安倍政権の下でこれからもアベノミクスが継続され、円安と株高がまだまだ続く」というシナリオを描くことができたわけである。
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