紫がそんなにムキになった理由は
大先生、ご立腹である。当時彰子は一条天皇の唯一の妻で、しかも当代きっての権力者の娘。そんなすごい人の下に働いている紫であれば、他人の嫌味や噂にそこまで反応しなくてもよかったのでは、と一瞬思ってしまう。しかし、平安はそれだけで安心できるような甘い時代ではなかった。
宮中では、たくさんの女性が教養と知識、美貌とセンスを競い合い、男性と同じぐらい権力争いを繰り広げていた。歌合わせと花見に明け暮れる楽しい生活とは裏腹に会社の看板を背負っているトップ営業マンのようなプレッシャーに毎日耐えていたのである。噂一つでもバカにできない世界だ。にもかかわらず、感情を押し殺して女らしく振る舞うことが求められていた平安の女たち――いとおそろし!
想像上の人物である紫上のように、感情豊かで、何でも完璧に近い人にはもちろん憧れるが、『紫式部日記』で垣間見られる本物の紫は、その弱みと強み、不安とプライド、悩みとストレスを(ちょっとだけ)ありのままさらけだしている。そして、私たちは人間味あふれたその素顔に心を打たれ、共感してしまうのである。
現代を生きていたら、紫だってガード下で一杯ひっかけて、1週間の「おほやけばら」なことを忘れて帰っていたことであろう。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら