中野:でも、誤解を恐れずに言うなら、ベンチャー企業って、形式的な基準だけで判断すれば「ほぼブラック企業」ですよね。「サブロク協定」といわれる労働基準法第36条を、杓子定規に守っていたら、仕事が回らなくなります。
ブラック企業というと長時間労働ばかりが問題視され、働き方改革では、労働時間の短縮化が議論の俎上に乗せられていますが、なかには働くのが好きな人もいますよね。研究などに没頭しているうちに、気づいたら毎日終電だったという人が、いてもおかしくない。スタートアップ段階のベンチャー企業だったら、そういうところは結構たくさんあると思うのですが、それも十把一絡げでブラック企業認定するとしたら、それはおかしいと思います。
労働基準監督署から見たら、「労働は悪」?
藤野:「労働は悪」というのが、労働基準監督署の制度設計の背景にある気がしています。
中野:それ自体、おかしな話ですよね。
藤野:とはいえ、国民の中にも「労働は悪」という考え方に対して、同意する人は結構いると思います。当然、今の若い人の中にも、そう思っている人は少なからずいて、リクルーティングのとき、学生がやたらと「有給はちゃんと取れますか?」とか「残業はどのくらいあるのでしょうか」と質問してくるケースが多いと聞いています。経営者側からすればうんざりしてしまう面もありますが、厚労省的な考え方からすれば、「正しい」ということになるのでしょうね。
中野:結局、会社で残業ができないものだから、家に帰ってから残った仕事をしている人もいます。ビジネスは成長が前提ですから、仕事を減らすことはできません。それなのに、会社からは早く家に帰れと言われるのでは、会社でこなせなかった仕事を、自宅やファミレスで続けるしかなくなる。それこそ不健全だし、ヤミ労働の元凶になります。これでは、ますます労働のブラック化が進むことになります。だから、画一的な労働観はよくないし、ましてや働くことが悪だというような価値観が広まると、社会の成長そのものが低下してしまうおそれがあります。
藤野:確かに、残業は少ないほどいいという風潮だけが先に広まると、労働は悪であるという考え方が、今まで以上に強まる懸念はあります。
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