ここでの共創は、どのような仕組みや施設を使って行われているのか。中心のひとつは、オールボー大学だ。約1万8000人の学生が通う、デンマーク国内に2つある工科大学のひとつである。
研究者が地域の戦略にのっとった研究活動を進めていたり、学生が在学中から地元企業やNPOとの協働経験を積み、地域を担う人材として卒業していったりする。また、特筆すべきは、大学の研究者・学生と民間企業が集う「NOVI(北ユトランド・サイエンスパーク)」というビジネス・イノベーション開発拠点を擁していることだ。
地元企業はもちろんのこと、サムスンやノキアといったグローバル企業も研究拠点を置くこの施設を研究者や学生たちは、自由に活用することができる。彼らと企業が交流することが、大学の研究成果を産業界の価値に変える原動力になっている。専門の「マッチメイキング担当者」もいて、彼らが研究者・学生と企業とを積極的につないでいく。
優れたアイデアにはNOVI専属のベンチャーキャピタルから資金が提供される仕組みもつくられている。NOVIに所属する教授は、自分の時間の80%を起業活動にあて、20%を研究活動にあてるとされており、学生の起業支援も行う。
また、施設内には「グロースハウス(Growth House)」という公設のコンサルタントグループも入居している。小国であるデンマークでは、企業はつねにグローバル展開や輸出拡大を図らなければならないが、グロースハウスは商社などのグローバルビジネスの経験を持つ民間企業出身者や外務省の担当職員などが常駐する組織で、中小企業やスタートアップ企業に対し、海外進出に向けたコンサルティングや資金提供、ビジネス開発支援などを行っているのだ。人材獲得の支援なども合わせて展開。年間で600社もの企業を支援し、約500人の雇用創出や数十名の高学歴人材のマッチングを行っているという。
キーワード「クワトロ・へリックス(四重の螺旋)」
ビジョンや価値観を共有し、ひとつの未来に向けて、産官学民の各組織が互いのリソースやアイデア取り交わす――。そのようにして地域が新しいものを創出するキーワードとして、オールボー大学開発計画学部(Department of Development and Planning)のソーレン・ケンドロップ(Soeren Kemdrup)准教授は、「クワトロ・へリックス(Quadro-Helix)」という言葉を紹介してくれた。
直訳すると「四重の螺旋(らせん)」。産・官・学・民の4者が、共に問題解決にかかわり、共にイノベーションを起こしていくことを指す。単なる「連携」ではなく、「螺旋」というワードを使っているのがポイントだ。1つの中心を持ちながら、螺旋状に絡まり合って、1つの方向に前進・上昇していくイメージだろうか。
ソーレン准教授は「地域におけるイノベーションの創出においては『価値観の共有(Shared Value)』をどう構築し協働するかが成功のカギとなる」「何が共通のゴールなのかを意識することが重要」と語る。
「ただ企業が地域に来るだけでは意味がなく、自治体や市民とどのように関係性をつくるか」「行政・企業だけでなく、市民が参加することや子どもへの教育活動を行っていくことも極めて重要なのです」
この地域にどんな産業を育てるのか、この地域にどんな未来を描きたいか、ビジョンや価値観を産官学民で対話しながら共有し、そしてそれぞれの強みや個性を生かしてアクションを進めていく。そうすることで、地域の人々に支持され、世界からも評価される、ユニークな図書館や新たな政策・産業が生まれていく。デンマークの「クワトロ・へリックス」を意識したプロジェクトの進め方・働き方に、学ぶことは多いのではないだろうか。
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