日本企業が「ボトムアップ型」に落ち着く必然 鎌倉時代から「イエ社会」が続いている

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──温故知新に加え、「新たな資本主義モデル」も提示していますね。

「T字モデル」。実は入省3年目に執筆依頼があり、当時の考えをまとめたものの改訂版だ。いよいよ人口減少社会になり、一人ひとりが総合的な人間力で勝負していかなければならない。どういう人間を育てないといけないか、もう一度整理してみた。

──ほかにも人間力に着目したエピソードが小説を含め豊富に織り込んであります。

前述の渋沢栄一と西郷隆盛との面談のエピソードが何より面白い。渋沢がまだ若き役人だった頃のことだ。渋沢の正論に西郷は何も言わず、報復することもなく去っていく。政治家の陳情に渋沢は役人の立場からスジを通した。政治家と官僚のかかわり方をシンボリックに示している。明治時代にスッキリした政官関係もあったのだ。

──ベンダサンには空体語、実体語といった表現もあります。

憲法改正の話になるとまた同じような理屈で動くだろう。今も全然、変わっていない。しっかりこのキーワードの理屈を頭に置いて押さえておいたほうがいい。

空気の支配

──「空気」という言葉は今もよく使われます。

「空気」はなぜできたのか。米トランプ政権ができたのも、英国がEU(欧州連合)離脱を決めたのも、「空気」が動かしたからかもしれないし、中国の文化大革命もそうなのかもしれない。

──日本だけではない?

日本の場合は戦争まで行ってしまう。日本の「空気」はなぜ支配が強いのか。山本七平の文章はけっこう難解だから、原典に当たってみることだ。

『日本人と資本主義の精神』 (ちくま新書)(筑摩書房/230ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

──「水を差す」は出てこないのですか。

「空気の支配」に対して大事なのは「水を差す」。明治時代までは現実に引き戻す力を持っていた。

──同時に異端の人も大事と。

最後に立て直すのはそういう人たち。どこかにプールしておかないと、危機に対応できる人材がいなくなってしまう。

──ご自身は中国勤務以来、中国経済の研究をライフワークにしているそうですね。

この8月末に日中国交正常化45年のシンポジウムで話をしてきたばかりだ。中国は金融の自由化・国際化が中途半端な段階にある。これから激烈なバブルが起こる可能性もあると。もう一つ、経済のサービス化を本格化するのは、今のモデルでは無理があるとも伝えた。

塚田 紀史 東洋経済 記者

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つかだ のりふみ / Norifumi Tsukada

電気機器、金属製品などの業界を担当

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