とにかく、今のままでは子どもの漢字嫌いが増えますし、豊かな漢字や書の歴史を正しく理解し継承することもできません。
私は自分の本名を手書きで書くとき、杉山の「杉」の2画目をはねて書きます。そのほうが字のバランスが整って美しくなると思うからです。でも、それを見てある子どもが「先生、間違えてる」と言いました。それで私は理由を説明しましたが、ほとんどの子は「杉という字の2画ははねてもよいし、そのほうが美しいかもしれない」ということを知らないまま大人になっていくのです。これは漢字文化をゆがめてしまうということではないでしょうか? ついでに言えば、私は「保」という字も、6、7、8、9画目を「木」にするより「ホ」にしたほうが美しいと思います。
しかも、今や文章は手書きで「書く」よりも、「打つ」や「入力する」ことがほとんどの時代ですし、この傾向はますます顕著になっていくはずです。そのような時代に生きていく子どもたちに、細部の違いにこだわり過ぎた指導は合理的でしょうか?
それよりも、同音異義語・同訓異字語の使い分けが的確にできるようにしたり、使える語彙を豊かにしたりすることに時間をかけたほうがはるかに有意義です。子どもの貴重な時間は有限ですから、コスパを考えることが大切です。
行きすぎた指導は必要ない
もちろん、私は、とめ・はね・はらいなどの違いや書き順の指導がまったく必要ないと言うつもりはありません。「角」の3画目をはねてはいけませんし、「点」の書き順にしても「口」の部分から書くようなことではいけないのです。これらは書の歴史にない書き方であり、明らかに間違いです。これらを許したら書の文化が崩壊します。ですから、私が言いたいのは行きすぎた指導は必要ないということです。
ところで、2016年2月29日に文化審議会漢字小委員会が「常用漢字で『とめ』『はね』などに細かい違いがあっても誤りではなく、さまざまな字形が認められる」ということを解説した指針案を国語分科会に報告しました。その後、それについて詳しく解説した『常用漢字表の字体・字形に関する指針 文化審議会国語分科会報告(平成28年2月29日)』という書籍も三省堂から出版されました。また、これと同じ内容を文化庁のサイトでも見ることができます。(PDFはこちら)
ようやく改善の動きが見え始めたというところですが、やはりまだ周知不足の感は否めません。より広く周知徹底していってほしいと思います。
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