「女神の見えざる手」が描くロビイストの裏側 東洋経済オンライン読者限定試写会を開催!

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本作劇中のロビイストたちは言葉を駆使して火花を散らしており、それゆえにせりふが重要となる。そこでキャスティングでは、舞台出身の俳優たちが集められ、まるでシェイクスピアの悲劇作品のような重厚な演技合戦が繰り広げられていく。

ちなみに監督のジョン・マッデンは、オックスフォード&ケンブリッジ・シェイクスピア・カンパニーに在籍した経験があるほか、マーク・ストロング、サム・ウォーターストン、ジョン・リスゴーといった、シェイクスピア劇を経験したことのある実力派たちがしっかりと脇を固めている。

本作の脚本を担当したジョナサン・ペレラは、もともとイギリスの弁護士出身。クリエーティブな仕事に夢を求めた彼は、弁護士を辞職。韓国の小学校で英語を教えながら、独学で脚本を学んでいたという経歴を持つ。そんな彼にとって初の映画作品となる脚本は、まるでスパイ活動のように策略をめぐらせ続け、巧妙なわなで相手を陥れる。そして観客の予想のつかない方向へと転がり続け、最後まで目が離せないものとなっている。

ペレラが書いた脚本は、フィルムネーション・エンターテインメント社に送られ、映画スタジオの重役をはじめとした映画業界人たちが未発表の脚本に投票して選ぶ「ザ・ブラックリスト」に入る。ちなみにこの「ザ・ブラックリスト」に入った脚本の中からは、『英国王のスピーチ』『アルゴ』『スラムドッグ$ミリオネア』といったアカデミー賞作品賞受賞作品が生まれている。

観客も予想がつかない、巧妙な策略の数々

本作にアドバイスを行ったロビイスト会社「グローバー・パーク・グループ」のアダム・ブリックスタインも「連邦議会や企業の取締役会の中でひそかに起こっていることをうまくとらえている」と本作のリアリティに太鼓判を押している。

日本人にとってなじみの薄い「ロビー活動」であるが、2020年の東京オリンピック誘致成功の影には、招致委員会が地道なロビー活動を繰り広げ、それが実を結んだものとして評価された。

日本でもロビー活動の重要性が少しずつ増しているが、表立って行われるものではないため、その実態は、わかりづらい。そんなロビイストの実態を知るきっかけとして、本作はうってつけである。とはいえ、勝つためには手段を選ばず、倫理や常識を大きく踏み外した行動に打って出るエリザベスのまねができるかは、別問題かもしれない。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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