仲:ユーザー思考というのは、日産にいたときはなかったんですか?
杉江:僕は正直なかったですね。ユーザー調査は自分でしたこともなかったですし。僕がいたポジションに求められていたのは、ユーザー思考を考えるというよりも、新しい造形を出すことだったと思います。もちろん会社としては、ユーザーサーベイがちゃんとありましたけど、それは別の人がやっているもので、共有していなかった。やはりそこらへんは大企業ゆえの分業ということになってしまっていて。ただ僕は新しい案をいっぱい出すことばかりやっていた。実際のユーザーの声なんて気にもしていませんでした。
なんでアメリカ? ユーザーがいるから
仲:逆に大企業にいたからよかったことはありますか?
杉江:もちろんありますよ。僕の場合、たかだか3年しかいなかったので、大したことはないですが、それでも作り方とか、プロトタイプから量産までの大きな流れを知るという意味では、とても勉強になりましたよね。
仲:そのあと海外に行ってよかったことは?
杉江:すぐ日本を超えて考えるっていう思考になったと思います。基本的にユーザーがいるところならどこでもいいという考え方です。WHILLを販売する市場としてアメリカを選んだのも、アメリカに対してあこがれれがあったというわけではなくて、ユーザーがいるから、コンタクトが多かったからアメリカ、そういうシンプルな決め方です。実際、アメリカの市場は日本の8倍になります。
仲:そもそもどうして車いすのメインの市場はアメリカなのですか?
杉江:うーん。理由は3つあります。まず、地理的に広くて平坦なところ、バリアフリーのところが多いから使いやすい。2つ目は日本とアメリカでのドクターの考え方。一般的にマニュアルの車いすに乗れる方は、できるだけマニュアルで動くほうがいいと言われています。運動になり健康によいから。
ただアメリカでは、何十年もマニュアルの車いすに乗っていると肩が潰れてしまうので、時々、休んで電動車いすに乗ったほうがよいという考え方なんです。よくドクターも言っています。なのでマニュアル車いすを持っている人も電動車いすを持っているという人が結構います。3つ目はイメージの違い。日本の場合、電動車いすは症状が重度な方が乗るものだというイメージがあります。アメリカでは少し立てる人でも乗っていたり、電動車いすのイメージは日本より一般化しているように思います。
仲:そうなんですね。ユーザー調査はどういったスタイルでやっていますか?
杉江:ユーザーの1日を想定して、一つひとつのシーンの仮説を検証していくのです。朝起きてから会社に行って夜ベッドにつくまで、どういう風に動いて、使うのか? トイレは? ご飯のときは? 手の位置は? 雨のときは? とかもう考えられる出来事がすべてイメージできるくらいに。広く浅くではなく、一人ひとりに対して深く聞いていくんです。ただユーザー視点といっても、おカネを出して買うという人の意見のみを忠実に聞いています。本当にWHLLの価値に共感し、どうしても欲しいというユーザーを見つけ出して、とことん考えるんです。僕も乗って1日過ごしてみますしね。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら