「独身でいたい」が理解されない40男の苦悩 東京から地元に戻って感じた「家族の重さ」

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型に嵌った人生を送らないと周囲からとやかく言われるのは、実際煩わしいことです。東京との違いに落胆しているのかもしれません。しかし、言葉を変えれば、それだけ自分のことを気にかけてくれる人が身近にいるということでもあります。おそらく、故郷での朔太郎さんは不自由だけれど、安心して生活を送っているはずです。

もちろん、いくら地元には安心があるとはいえ、今後も暮らしていくのならば、40代で「変な人」なのですから、歳をとるごとにさらに周囲の視線が厳しくなることは確実です。安心を上回る不自由を課せられる危険性があります。ですから、お住いの地域の価値観とどのように折り合いをつけていくのかは、考えておかなければなりません。

まず、朔太郎さんがご自身を「変な人」と思わないことが大切です。日本全体で見ると、40代で独身の男性は珍しい存在ではありません。2015年の国勢調査によると、未婚率は40代前半で29.3%、40代後半でも25.2%です。50歳の時点で一度も結婚したことのない人の割合を示す生涯未婚率は、2015年には男性で23.37%になりました。加えて、各種の意識調査では、「結婚するか/しないか」、「結婚後に子どもを持つか/持たないか」は個人の自由という考え方が主流です。

ただし、数としては少数派ではないと本人が理解をしても、他人の見方が変わらなければ肩身の狭い思いをします。それでも、こうした統計を示して、周囲の人を説得しようと考えないでください。

特にご家族の場合、論理的な問題ではなく、感情的な問題だからです。他人が結婚しようがしまいが構わないし、都会では独身でも気兼ねなく生きていけるかもしれない。けれど、自分の子どもや孫には結婚して欲しいと願っているからこそ、ついつい嫌味に聞こえると分かっていながら「いつかいい人と結婚してくれたら」と言ってしまうのです。

東京と地元、両方の価値観を知っていることは強みだ

社会学者のピーター・L・バーガーは、「人間は、意味のある世界に住む権利を持つ」と述べています(『犠牲のピラミッド』)。「結婚するか/しないかは個人の自由」という価値観を支持する人もいれば、「普通の人は結婚する」という価値観に基づいて生きている人もいます。

現代の日本では、ダイバーシティが重要だという話をよく耳にします。それぞれの社会や人生に対する意味づけを尊重しながら、いかにして共に生きていくのかを考えていかなければならない時代になっているのです。

朔太郎さんの悩みは、一度は上京し、再び地元で生活をしているからこそ深まってしまったわけですが、両方の価値観を知っていることは強みでもあります。多様性が大切だと言いながら、自分の価値観に合わないものは否定したり、新しいものは正しく古いものは間違っているという単純な二分法を展開したりする議論をしばしば見かけます。

大学院まで研究を続けたのですから、朔太郎さんは、きっと知的で自分の頭で考えることが好きなはずです。多様性を認めるとはどのようなことなのか。同じ中年男性の一人として、僕も共に考えていきたいと思います。

読者の皆様から田中先生へのお悩みを募集します。「男であることがしんどい!」「”男は○○であるべき”と言われているけれど、どうして?」などなど、“男であること”にまつわるお悩み・疑問がある方はこちらまでどうぞ。相談者の性別は問いません。
田中 俊之 大妻女子大学人間関係学部准教授

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たなか としゆき / Toshiyuki Tanaka

1975年生まれ。2008年博士号(社会学)取得。武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師、武蔵大学社会学部助教、大正大学心理社会学部准教授を経て、2022年より現職。男性学の第一人者として、新聞、雑誌、ラジオ、ネットメディア等で活躍している。

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