とにかく、今回の元保安官恩赦は、アリゾナ州ばかりでなく、法と秩序を重んじ、不法移民に厳しい全米の白人有権者にアピールすることは間違いない。
トランプ氏の「オバマ潰し」には、もう一手ある。昨年の大統領選中に起こったヒラリー候補のメール事件に関連した「司法妨害」疑惑だ。その事件を捜査していたジェームズ・コミー前連邦捜査局(FBI)長官に対して、当時の女性司法長官が「司法妨害」に関与した疑いがあり、現在、上院がその調査をしている。
その女性司法長官を任命したのはオバマ前大統領であり、オバマ氏の任命責任は免れない。その「司法妨害」疑惑に、オバマ氏が巻き込まれるように、トランプ陣営が仕組むことも十分ありうる。
「大統領令」の決定でトランプ氏に追い風も
アリゾナ州フェニックス演説で、トランプ氏は不法移民の規制強化と同時に、ラテン系を含む労働者の賃金を引き上げる方針を明らかにしている。
ラテン系の労働者にとって、新たに移民として入ってくるラテン系の人たちの労働市場への参入は、いわばライバルの出現であり、日々のぎりぎりの生活にとって脅威でもある。トランプ大統領が考えている、低賃金の移民を規制するという法案は、そうした人たちの切実な現実にアピールする。
もともと民主党のほうがラテン系に強いとされてきたが、トランプ大統領はラテン系にも強い集客力を持つ。トランプ氏は共和党候補者だが、いわゆるエリートには見えない。その庶民的なところがラテン系の人たちにも受けている。昨年の大統領選でトランプ氏がフロリダ州で勝ったのも、そのことを証明している。
人種差別問題や白人至上主義問題をめぐって、米メディアはトランプ氏をこっぴどく批判している。しかし、トランプ氏は不法移民の取り締まり強化を通じて、いわば裏ワザを使って、ラテン系の人たちをトランプ陣営に誘い込む作戦を展開している。それをまずアリゾナ州で始めたことは、トランプ氏の地政学的感覚の鋭さを物語るものだ。
トランプ大統領が就任早々に打ち出した移民規制の「大統領令」は、一部の連邦高等裁で違憲判決が下された。しかし、その修正「大統領令」は、最高裁ですでに9対0という全員一致で合憲の判断が下されている。秋に正式に決定されるが、それが先の最高裁判断どおりに決まれば、移民問題をめぐって、厳しい公約どおりの姿勢を貫くトランプ氏にとっては、さらに強い追い風が吹くことになる。
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