まずアリゾナ州を選んだのは、同州が共和党の地盤であることと、これからの選挙では、移民が大きなテーマになることは確実であり、すでにラテン系の移民が大問題となっているアリゾナ州は、カリフォルニア州の隣に位置し、メキシコ国境に接しており、重要かつ象徴的な州だからだ。
フェニックス演説のほんの10日前、バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者と反対派の衝突で死傷者が出る悲惨な事件が起こった。その人種問題の対応をめぐって、トランプ大統領の二転三転した中途半端な発言に批判が続出した。
そのシャーロッツビル事件での発言の不評を打ち消し、トランプ大統領の支持基盤である貧しい白人労働者層における人気を掘り返し、トランプ氏自身の名誉を挽回するために、アリゾナ州の保安官として不法移民の追放で勇名を馳せ、立派な愛国者であるアーパイオ氏を恩赦するという手段に、トランプ大統領は打って出たと筆者は見ている。
本当の狙いはオバマ前大統領の野望を打ち砕くこと
アーパイオ氏恩赦の狙いはそれだけにとどまらない。本当の狙いは「最大のライバル」であるバラク・オバマ前大統領の最高裁判事・長官への野望をくじくことだ。それは決して唐突な話ではない。本欄「トランプ大統領が勢いづいている本当の理由」で詳述したとおり、オバマ氏のレジェンド潰しは、トランプ氏の基本戦略でもある。
オバマ氏の最高裁判事指名は、昨年の大統領選で民主党のヒラリー・クリントン候補が優勢だったときには、オープンシークレット(公知の事実)であった。超名門ロースクールを首席で卒業したオバマ氏の法律家としての抜群の優秀さは誰しも認める。ヒラリー氏が勝っていれば、オバマ氏の最高裁判事指名は100%確実だった。
結局、トランプ勝利でその可能性は遠のいた。さらに、今年4月、トランプ大統領の指名によって、ニール・ゴーサッチ氏が保守派の最高裁判事に就任したことで、オバマ氏の可能性はさらに遠のいた。
ところが、トランプ氏にとって忌まわしいシャーロッツビル事件が起こって、流れが変わったかに見える。これまで北朝鮮の核・ミサイル開発を戦略的「放置」してきたことから、自ら身を引き、沈黙していたオバマ氏が、ここへきて、その事件を契機に表舞台に出てきた格好なのだ。
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