「終身保険=実質の保険料負担なし」は誤解だ 掛け捨てのほうが「実質的な負担」は軽い

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ちなみに②と③の図は、筆者が書籍などで知った情報を基に推察で作ったものです。そこで、専門家に確認することにしたのですが「これで合っていますよ。今まで知らなかったのですか?」と不思議がられてしまいました。

同時に、驚かれたこともありました。「老後に解約した場合、保険料総額を上回る払戻金があるので、掛け捨てになる保険料の負担は実質的にはゼロになる」という見方について「本気で言っているとしたら信じられない!」と言われたのです。

まず、契約が数十年継続するという前提に無理があるからです。確かに、個人保険・個人年金保険の分野で、例年、件数ベースで3~5%程度の解約・失効が発生している事実から試算すると、ある契約が10年続く確率は60~70%程度、30年ともなると20~40%くらいまで下がります。

また、固定金利で長期契約を結ぶ場合、将来の払戻金の価値が、貨幣価値の変動や金利の上昇について行けなくなるリスクがあります。保険会社が破綻するリスクなども無視できません。

こうしたリスクを考えると、保険料総額と老後の払戻金の額面を単純比較して「保障に要する保険料は実質的にはゼロ」と評価するのは、タラレバの話にしても「筋が悪いです。断じて、やってはいけないことです」と言われたのです。

営業マン時代に忘れていた「問いかけ」

筆者の営業マン時代を振り返って感じるのは「そもそも『実質的』とは何だ?」という問いかけを忘れていた、ということです。実質うんぬんを語るのであれば、額面どおりに評価できない遠い将来の払戻金より、契約成立後に確実に発生する手数料等に注目すべきだからです。

複数の現役代理店の人によると、今回のような終身保険の加入例では、契約初年度に、年間保険料の40%程度の手数料が代理店に支払われるそうです。金融商品としては破格の手数料が差し引かれ、1年目の保険料の一部しか積立に回らないことは、実質的どころか加入者にとっては痛い現実そのものではないかと思います。

あらためて、②の仕組み図を見ると、保険にしかない機能は保障であり、積立ではないことがわかります。また、保障部分に似た三角形で図示できる商品があることにも気づきます。死亡時の保険金が、一定期間、毎月、分割払いで支払われる「収入保障保険」です。

たとえば、ある保険会社の「収入保障保険」で35歳の男性が、月額15万円の死亡保険金を20年間用意する場合、死亡保険金の総額は3600万円から、毎年180万円ずつ減額されていきます。そのため図示すると、右肩下がりの三角形になるのです。

保険料は約3200円です。収入保障保険の代理店手数料率(初年度)はおおむね70%程度と言いますから、1年分の手数料は約2万7000円と推計されます。これに対し、図①の終身保険では手数料率40%であっても13万円近い手数料が引かれる計算です。

さらに、保険金額が1000万円で子どもが幼少時代の保険金が十分だろうかという疑問も残ります。終身保険は、相続対策には有用だと思いますが、一般の人たちにとって、使い勝手がいいのは、収入保障保険でしょう。

営業マン時代の筆者には、自身が販売している保険が「よいものであると思いたい」という願望がありました。その願望が終身保険などの仕組みに関する疑問を遠ざけたと思います。老後の払戻金のように、自分が見たいものばかりを見ていたのです。

保険料が掛け捨てになることに抵抗がある向きは、今も少なくないかもしれません。そんな人は、積立部分がある保険ではなく、より保険料が安い掛け捨ての保険に入るほうが、ご自身の「実質的な負担」が軽くなることを強調したいと思います。

後田 亨 オフィスバトン「保険相談室」代表

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うしろだ とおる / Tooru Ushiroda

1959年、長崎県出身。長崎大学経済学部卒。1995年、アパレルメーカーから日本生命へ転職。営業職、複数の保険会社の商品を扱う代理店を経て2012年に独立。現在はオフィスバトン「保険相談室」代表として執筆やセミナー講師、個人向け有料相談を手掛ける。『「保険のプロ」が生命保険に入らないもっともな理由』(青春出版社)ほか、著書・メディア掲載多数。

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