3大メガバンク海外大競争、積極投資の裏で高まるリスク
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、連結子会社のユニオンバンカル・コーポレーション(UNBC)を完全子会社化することを決めた。すでにグループで約65%の株式を保有するが、残りを三菱東京UFJ銀行(BTMU)が一株73・5ドルで公開買い付けする。総額は約35億ドル(約3850億円)にも上る。
MUFGは水面下で今年4月に1株58ドルでの買収を提案、8月12日には63ドルに価格を引き上げて公開買い付けを表明していた。が、UNBCの特別委員会(少数株主の利益を代表)との交渉でさらに価格を引き上げざるをえなくなった。大幅なプレミアム(過去30日の終値平均の4割)をつけることになるが、MUFG側は、UNBCを対米戦略の中核と考え、「交渉長期化の回避」を優先した。
個人向け業務に成長性
UNBCはサンフランシスコに本拠を置き、今年6月末の総資産は606億ドル。グループ中核のユニオン・バンク・オブ・カリフォルニア(UBOC)は預金規模で全米20位。カリフォルニア州を中心に全米約340店舗、海外に2店舗を持つ。法人部門と個人部門の収益は半々。個人部門は信用力の高いプライム層が対象顧客で、大手のような多額の損失を出していない。昨年度の純利益は前年度比19%減となったものの、約6億ドルを稼ぎ出した。MUFGの海外部門粗利益のうち47%を占めてもいる。
今年1~6月の純利益は2・5億ドルで、足元の環境はよくない。だが、MUFGは、人口増加地域でもあるカリフォルニア州における個人向け業務は成長性があると見る。UBOCの預金・決済機能を生かし、西海岸での日系取引で、BTMUとの協働体制や三菱UFJ信託銀行との協業などを進めている。グループ戦略遂行や、迅速な意思決定のためには、完全子会社化が必要と判断した。
サブプライム問題が火を噴いてから1年余り。財務的に傷んでいる米欧大手からは、邦銀に対して投資案件が多数持ち込まれている。
今年1月にはみずほコーポレート銀行が米メリルリンチに優先株12億ドルを出資。三井住友銀行は、トレーディング部門による収益のブレが大きい投資銀行を避け、ストックによる安定的な収益力を持つ商業銀行として、英バークレイズに約5億ポンド(約1000億円)を出資した。「非常に高いリスクがあり、投資判断が難しい状況」(田中達郎BTMU副頭取)の中、MUFGはリスクの低い連結子会社の完全支配化という手堅い手段を選択した。ただ、「相乗効果を上げるためには投資銀行業務をもっと強くしたい」(同)との課題もあり、次の一手が注目される。
ただ、米欧金融環境の全体状況からすると、楽観はしにくい。今回の金融不安は構造的には過剰流動性によるバブル崩壊。サブプライム問題は一断面にすぎない。信用収縮は商業用不動産やLBOといった市場にも広がっている。米国では信用収縮と実体経済の悪化が相互に作用を及ぼす悪循環に陥る危険性もある。
みずほコーポがメリルに出資した優先株は、その後の株価下落を受け、普通株への転換価格が当初の52・4ドルから33ドルに引き下げられた。同時期に、多額の出資をしたテマセク(シンガポール政府系投資ファンド)は損失の補填を受けている。環境悪化の影響は証券にとどまらない。
現在、邦銀は条件のよい融資案件を選べる状況にあるが、「過去数年のバブル期の海外融資案件は不良債権化するリスクが高まっている」(メガバンク幹部)。世界最大の自動車メーカー、GMの危機が邦銀に飛び火するおそれもある。チャンスばかりでなく、リスクも高まっている。
(大崎明子 撮影:風間仁一郎 =週刊東洋経済)
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