日本の部活を覆う「ブラックな忖度」という罠 内田良氏×島沢優子氏が語る(前編)

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内田:部活動の問題って、教育界の中ではとりわけ体罰だとか、過酷な練習にフォーカスされてきたと思うんです。ずっと生徒の問題として論じられてきた。ところが、この1~2年の動きは、むしろ先生たちが声を上げ始めたところが大きいかなと思っています。少し過激な言い方をすれば、教育界のタブーを打ち破るといいますか、「先生は子どものために尽くして当然だ」みたいな発想に対し「異議あり」と手を挙げたわけです。島沢さんにとっても、これは新しい動きだったのでしょうか。

部活指導を好きでやっている先生ばかりじゃない

島沢:私も実は、部活指導を好きでやっている先生ばかりじゃないんだ!って驚きました。

名古屋大学准教授の内田良氏(撮影:尾形文繁)

内田:島沢さんの本では「部活問題対策プロジェクト」の先生方の声を基に、ブラック部活とは生徒だけでなく教師にとってもそうなんだということをご指摘なさっています。先生も子どものためとはいえ、苦しんでるんだ、嫌なんだ、ということを、私たち社会は最近知るようになったわけです。今までは生徒が苦しいということのみに注目されていたので、僕自身も先生方の問題に光を当てなければと思ったわけです。

島沢:私は、教師の方々が「部活は僕らにとってもブラックだ」と署名運動を始めたことがきっかけで、部活動がひとつの社会問題としてようやく認識された気がします。私の印象では、2013年に文部科学省が体罰根絶を言い始めたり、ほかの体罰事件も起きましたが、生徒の苦しみをすくい取ろうとする動きはそれまでほとんどなかったので。

内田:えっ? そうなんですか。

島沢:ありませんでした。どうしたものだろうと思って、2015年の秋に『AERA』で「子どもに理不尽強いるブラック部活の実情」という記事を書いたら、少し反響があった。当時ブラック企業やブラックバイトという単語が出てきた頃だったので、「ブラック部活」という言葉が目立つアイコンになった。

内田:ほかのメディアは乗ってこなかったんですか。

島沢:おそらくスポーツの有名校の監督さんを責めることには躊躇があったのでしょう。ところが、数カ月して「部活問題対策プロジェクト」を立ち上げた教師の皆さんが署名活動を始められたおかげで、すごく動きが出てきました。

内田:島沢さんがおっしゃるように、子どもの事故が起きても世の中はあまり動かないけど、先生側の損害になると世の中が動くんだなあ。大人が優先されるこの仕組みは、しっかりと注視すべきですね。島沢さんが『部活があぶない』のなかで、体罰だけでなく、部活動中の生徒の事故にも言及なさっているように、僕も同じく、生徒の被害にこそ関心があります。

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