大島:実はこのエリア、定年退職をした人の中からは、すでに起業する人が出てきているんです。1960年代から開発されている宅地団地は、団塊の世代から、さらにその上の世代がまだお元気。しかも、販売当時は高級分譲地ですから、働かれていたのは一流企業です。いままでに形成した資産や退職金も含めて、おカネももっていらっしゃるんですね。
だから、定年後に「自分のスキルを活かしてワインのインポートビジネスをしています」とか「生ハムを売っています」という人がいます。
三浦:そういうビジネスは、家を改造してお店を作ってやってるの?
大島:たいてい自分の家の書斎なんかで、パソコンとネットを駆使してやってるんですよ。残念なのは、それらのアクティビティーが街に起きている現象として認知しにくいということ。
若い人の中にはもちろん、これに近い起業を郊外住宅地、自宅でする人も多い。そう考えると、郊外では若い起業家たちだけでなくて、主婦や高齢者もあわせて、お互いのスキル、ノウハウを共有しながら世代をまたいで「コワーキング」するという、郊外住宅地だからこそあり得るワークスタイルに期待が高まる。郊外には、都心の青山、渋谷、丸の内のコワーキングスペースで起業しなくちゃいけない、という決まりはないですよね。
価値観を共有できる人間と共にビジネスチャンスを広げたい、というそもそものコワーキングニーズを考えれば、郊外住宅地のど真ん中に仕事場を含む暮らしの拠点を持つという価値観は共有意識が芽生えやすいはずです。たとえば、お母さん同士が自分たちの生活に対する問題意識から生まれるビジネスを作ろうとする場合、郊外住宅地でビジネスと暮らしの両立をはかるのに最適でしょう。ムリして渋谷まで出勤するより、健全ですよね。
仕事の仕方が多様化している現在、仕事をする場を郊外の宅地に移植することは可能なんじゃないかと僕は思います。
三浦:千葉県の流山市では、もうそういう流れが起きています。30代のママさんが、地元で起業したり、起業家支援のイベントをやっています。さらに、コワーキングスペースをつくって、そこに化粧品情報サイト「@cosme」をやっているIT企業を誘致したんです。アットコスメのサイトデザインとか編集作業を流山でやっちゃう。家の近くだから、子どもが熱を出したら、家に寝かせて、また戻ってきて仕事をするとか、そんな働き方ができるわけです。
住めて働ける街は、各停駅前にあった
大島:それは面白いですね。ちなみに、郊外に仕事場を、と考えたとき、僕は急行停車駅より、各駅停車のほうがやりやすいと思っています。
三浦:なぜですか?
大島:各駅停車の駅前のほうが、住宅に近いですから。駅前の商業地が極端に小さいです。毎日駅前まで自転車で通勤して、お昼ご飯は家に食べに帰って、晩ご飯前にもいったん家に帰って、ドレスアップして街の演奏会に行く、なんてすてきな生活もできるだろうし。
そして、必要に応じて都心でクライアントとの打ち合わせがあるときなど、その都度都心に出向く。こういう働き方は、マジョリティにはならないかもしれない。けれども、その地域の暮らし方の旗振り役として働き方を変えていくきっかけになるはず。郊外で仕事をするというのはこういうことです、と。
三浦:今のお話を聞いていると、大島さんは必ずしも建物のリノベをしなくていいってこと?
大島:そう。僕が考えているリノベっていうのは街のリノベなので、建物の再生をしなくてもいいんです。
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