今夜は刺身!と言いたくなる、すごい版画 70年前の魚・版画マニアの、恐るべき執念

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楽しすぎる、「魚の食べ方」うんちく

『飛魚』 『大日本魚類画集』より 
1938年1月 姫路市立美術館蔵
写実的な絵に交じって、デザイン化されたものも。色の濃淡で波の動きを表している

毎回、木版画とセットで届けられたのが、魚類学者と釣り研究家による解説文だった。魚の生態、呼び名の由来のほか、食べ方についても書かれていた。

上の飛魚の場合、「肉は白色で、脂肪が乏しく、鮮魚は塩焼を酢でたべるか、三枚におろして、家庭向テンプラ、フライなどにする。極めて淡味である」「わが内地では、食用魚としても、釣魚としても、軽視され勝ちではあるが、航海者にとつては、この魚が船の中に飛込むと瑞魚(おめでたい魚)として非常に喜ばれる」といったうんちくが添えられた。

戦争が激しくなるまでは、英文の解説も付けられていた。日本の版画は外国人にとって格好のおみやげとなる。展示されている外国人向けの広告には、第1期は版画12点と額縁1個で35円、第2期は33円と書かれている。

『いわな』 『大日本魚類画集』より
1942年12月 姫路市立美術館蔵
藤のような植物と苔の生えた岩を配した日本画風の作品。画集には鮎、メダカなどの川の魚や金魚も含まれている。

潜水艇で海中を見た麥風は、鮮やかな鯛の姿に魅了されたという。魚の自然な姿を目にした衝撃は大きかったのだろう。魚への敬意にも似た愛情が伝わってくる。70年たった今も、限定500部のこの画集を古書店で探す人がいるそうだ。

『大日本魚類画集』のほかにも、麥風の初期の作品、江戸時代に博物学的な視点から描かれた魚類の絵、現代の杉浦千里が甲殻類をリアルに描いた作品などが展示され、子供用のワークシートも用意されている。魚が生き生きしているからなのか、どの絵もおいしそう。空腹を満たしてから水中散歩を楽しみたい。今夜はお刺身定食にします。


大野麥風展 「大日本魚類画集」と博物画にみる魚たち

7月27日~9月23日

東京ステーションギャラリー
東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅丸の内北口改札前)
TEL 03-3212-2485
10:00~18:00(金曜は20:00まで。入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜(9月16日、9月23日は開館)、9月17日
大人900円、高大生700円、小中学生400円


 

仲宇佐 ゆり フリーライター

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なかうさ ゆり / Yuri Nakausa

週刊誌のカルチャーページの編集・執筆を経て、美術展、ラジオ、本などについて取材、執筆。全国の美術館と温泉をめぐり歩いている。

 

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