薄利多売をやめなければ経済成長は望めない 日本は低収益・低賃金でいつまで頑張るのか

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第2の原因は、就業者の平均年齢が高くなることで労働時間1時間あたりの生産性を低下させる圧力が加わることだ。経験を積むことで向上する能力もあるが、加齢による体力や集中力の低下は避けられず、高齢者が1時間働くことと、若い世代が1時間働くことでは生産に与える効果が違うことは否定できない。

労働力の減少が続く中で、日本で生活する人たちが豊かさを維持し、生活水準を向上させていくためには、生産性を高めていく必要がある。政府や経済団体、エコノミストの提言でも、生産性向上の重要性は誰もが一致して主張するところだ。

さまざまな生産性の指標の中でも労働生産性は単純明快で分かりやすく、多くの議論で使われている。たとえば就業者1人当たりのGDP(国内総生産)を考えてみよう。

就業者数が変わらなければ、労働生産性が高まると日本全体のGDPが増えるが、他方でGDPが増えていれば必ず労働生産性は上昇している。経済成長には労働生産性の向上が必ず伴う。したがって、経済成長のために労働生産性を向上させると言う場合、どうやって労働生産性を高めるのかということを言わなければ、何も言っていないに等しい。

労働生産性を高めるためには、より多くの機械を導入して生産効率を高めることが考えられる。自動化を進めるために就業者1人当たりの機械設備を増やせば労働生産性は高まるが、設備への投資や維持更新を行うために国内生産のより大きな部分を割くという負担も増える。設備投資の拡大で労働生産性を高める戦略には限界がある。

ICT投資よりもTFPが問題なのではないか

今年の経済財政白書は、日本の生産性がアメリカ、スウェーデンのそれよりも1時間当たり15~20ドル程度も下回っているとし、ICT(情報通信技術)への投資の必要性を強調している。しかし、1994年を起点として2015年までの労働生産性の要因別(TFP<全要素生産性>、ICT資本装備率、非ICT資本装備率)の累積寄与度の差をみると、日本とアメリカとの生産性の差のほとんどはTFP(全要素生産性)要因によると述べている。

スウェーデンに対しても、差の約3分の2はTFP要因で、約3分の1がICT資本装備率要因だ。米国との労働生産性の比較では、ICT投資はほとんど寄与しておらず、非ICT投資についてはむしろ差を縮小する要因となっている。白書は、中小企業についてICT投資の不足が低生産性の原因であることを強調しているが、日本経済全体としてみれば投資量が足りないことが、他の先進諸国に比べて労働生産性が低い原因とは言えない。

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