薄利多売をやめなければ経済成長は望めない 日本は低収益・低賃金でいつまで頑張るのか

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TFPは生産の増加のうちで、労働投入や生産設備などの資本の投入で説明できない部分のことだ。生産拡大に対するTFPの寄与を決めるものは、新製品の投入、新しい生産技術の採用といった技術進歩であるとされている。

日本に求められているのは、米国の新興企業のようにもっと独創的な新製品を作り出したり、欧州の老舗企業のようにブランドイメージを高めて高値で売れる良い製品を作りだしたりすることだろう。

日本企業はかつて就業者1人当たりの設備を増やして労働生産性を高め、低コストで大量生産を行うことで成功してきた。日米の経済成長の差の大部分を説明しているTFPの寄与の違いは、中進国から高所得国へと成長する過程でのこうした成功体験が今も忘れられず、依然として薄利多売という戦略に固執していることに原因の一つがある。

「円安志向」、「誘致の人数目標」も従来の発想

海外の物が安く買える円高を嫌い、安値で海外に日本製品が売れる円安を好むのも、薄利多売の考え方が日本経済全体に染みついているからだ。しかし、今は同じ戦略を日本よりも賃金の低いアジアの新興国が採用しており、同一の土俵で戦えば、賃金の高い日本は最初から圧倒的に不利である。

訪日外国人観光客への対応でも、外国人向けの運賃の割引などの制度を作って、より多くの外国人観光客を誘致しようとしているが、これも薄利多売戦略の亜種というべきだろう。世界中の観光客に人気のハワイでは考え方が逆で、カマアイナ・レートと呼ばれる地元住民向けの安い料金が設定されていることがある。ハワイ州の消費税率は5%弱だがホテル宿泊客には高いホテル税が賦課される。つまり観光客からは高い税を取って地元の人達の税金を安くしようという考え方だ。

労働力の余剰があって失業が大きな問題となっていた時代であればともかく、人手不足の深刻化が懸念される中で、低収益・低賃金を武器に薄利多売という戦略を続けるのでは、経済成長はおぼつかない。良いサービスからは、それに応じた適切な料金を徴収するということをもっと真剣に考えていかないと、日本で生活する人たちの生活は貧しくなっていってしまうだけだろう。

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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