NHK渾身の「AIに聞いてみた」が炎上した必然 バズるワードへの傾倒がもたらす報道の歪み

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さらに次のようにNHKのディレクターが答えているとも書かれていた。

取材の時点では、「40代ひとり暮らし」と連動するとされた「自殺者数」「餓死者数」「空き家数」などについて、その因果関係までは解明されていない。ただ、重要なのは、新たなスタートラインに立つことだと神原ディレクターは語る。
「これまでの政策論やジャーナリズムの積み重ねでは、なかなか出せない球を投げてきたな、と思ってもらえたらうれしいです。“そこなのか?”という意外なポイントからスタートして、でも深掘りしてみると本質的だ、というところまでたどり着けば。人間からは出てきづらい“意外な一手”を大事にしてみたい、という提案です」
「番組のテーマ曲は『スタンド・バイ・ミー』。まさに『AIとともに』という思いを込めています。これからの世界で人間がともに生きる仲間として、AIは無視できない存在です。ただ、これを放送局として社会課題解決の手段としてやっているのは、まだ今のところ世界的にもなさそうだ、ではやってみようと。もしBBCなど世界の放送局が真似をしてきたら、それもいいですよね」

 

つまり、取材する側もされる側(NHK)も、ネブラがAIではないことを充分に悟ったうえで、番組がつくられ、番組内で指摘している問題についても、AIが指摘したのではなく、番組制作者が選択したものであるという共通認識がある。

なぜこのタイトルが付けられたのか?

ここまでの共通認識がありながらも「ひとり暮らしの40代が日本を滅ぼす」という答えをAIが導いたというタイトル設定をしたのは、読者の誤認を狙ったからなのだろう。まずは記事を読んでもらう必要あり、という意識が強ければあり得る話だが、AIという(一般的な読者、視聴者から見ると)極めて曖昧で謎の多い存在で煽れば、おそらくは誤解が広がっていくだろうと容易に想像できる。

SNS上でも批判の声はNHKよりもハフポスト側に多く集まったが、それに対するハフポスト編集長のコメントが、最悪と言っていいものだった。

「NHKの #AIに聞いてみた 番組。膨大な統計を分析して、ある統計(離婚率)と別の統計(肥満指数)の関係性を考える。そんなの偶然で因果関係ないでしょ? と疑うのではなく、AI分析を“シグナル”として人間どうしが会話をすることが大事」

因果関係と相関関係の混同を指摘する声に対しても、

「批判はもっともなのだか、そんなことをNHKが想定しなかったと思っているのだろうか、、、。因果関係と相関関係の混合はまず考えるに決まってる。それでもあえてあーだこーだと会話をするのが意義なんだと思う。だって人間だから。」

「#AIに聞いてみた の批判見てると、論理の破綻とか相関関係と因果関係の混合が、許せない人がいるようだが、人間がつくる番組だったなら破綻したりごちゃごちゃしてないと面白くないと思う。ロボットじゃないし。もしそれでも論理学基礎を啓蒙したいんだったら良いのですが、会話の不思議さが失われる」(以上、原文ママ)

ここからわかることは「AI」という言葉について、それを伝える側がよくわかっていないにもかかわらず、その無理解、知識不足について、まったく“悪くない”という態度を取っていることだ。

筆者も分析ツールを用いて、報道テーマを探すことには反対はしない。むしろ、もっと活用の幅を広げてもいいと思うほどだ。また、ハフポスト編集長がAIについて深い造詣を持っている必要はない。報道機関のトップにしか過ぎないのだから、深く知っているとしたらむしろ驚きだ。

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