NHK渾身の「AIに聞いてみた」が炎上した必然 バズるワードへの傾倒がもたらす報道の歪み
インターネットから拾える情報を分析し学習していくことで、問題解決に必要な評価式を微調整しているため正答率は一定以上にあるが、コンピュータは“もっともそれらしい”答えを見つけているだけで、答えを見つけるための方法はプログラマーが考えているというわけだ。
「なぁんだ。そんなふうに正しいと思われる答えを導き出しているだけで、正しいかどうかの確信なんてないんだねと思われるかもしれない。しかし、コンピュータというのはそういうもの。AIについて誤解をしているいろいろな企業の方々が、AIに過度な期待を抱きながら“ウチでも使えますかね?”と相談をしてくる。しかし、彼らの期待することと、現実にできていることのギャップは大きい」と新井博士。
例えばユニシスが担当した世界史のAI。過去問題から数種類に問題を分類し、それぞれのタイプごとに問題解決のアルゴリズムをつくり、ウィキペディアから抽出した情報をデータベースとして取り込んだという。評価モデルのチューニングは機械学習で行うなどして正答率を上げていき、世界史だけならば東大合格レベルにまで上昇したそうだ。
しかし、これはあくまでも“それらしい”答えを探しているに過ぎない。また、出題のパターンが大きく変化すると、(それらしい)回答を導くための評価モデルにも変化が起きるためコンピューターは正しい答えを導けなくなる可能性が高い。それらしい答えに近付くための道具としては良いものだが、本当に知能があるかと言えば知能はないと表現するのが正しいだろう。
もちろん、ありとあらゆる情報を評価して集め、関連付けて行くことで、もっともっと人間に近い認知・認識が行えるようになるかもしれない。しかし、評価する情報が増えるほど指数関数的に計算する情報は増えていき、そこに計算量爆発……無限に演算能力がなければ問題解決が行えない……という状況が発生するというのが新井博士の話だった。
機械学習・深層学習、あるいはニューラルネットワークといった技術によってAI技術は大きく進化した。大いに役立てるべき道具なのだが、そこに人間の知能に迫るかのような演出を加えると実態とは乖離しはじめ、AIに対する過度な期待がこの産業をダメにするのではないか?という心配を持つのは、AIの研究者として当たり前の感情なのかもしれない。
なぜ炎上したのかを考えてみる
さて、このような書き出しで書いたのはNHKスペシャルとして放送された「AIに聞いてみた」が、ネットで大きな話題になっていたからだ。この番組はNHKが独自に開発したAIに過去の統計データを分析させ、AIを通じてさまざまな社会問題の背景を炙り出すという番組だった。
この番組ではさまざまなテーマが扱われたが、中でも注目を集めたのは「ひとり暮らしの40代が増えると、日本は滅ぶ」というAIの導き出した結論だ。元になったのは5000種類、47都道府県に記録された30年ぶんのデータで、これらの情報を分析した結果、くだんの結論が導き出されたという。
“ネブラ”と名付けられたAIは、民間や公的機関が開発してきたAIとは別に、独自にNHKが開発したものだそうだが、なぜ独自開発なのかは番組中では示されなかった。これだけ人工知能に対する注目が集まり、多くの研究がされている中でNHKが独自開発する理由はほとんどないはずだ。
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