NHK渾身の「AIに聞いてみた」が炎上した必然 バズるワードへの傾倒がもたらす報道の歪み

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また、全録レコーダー内にあった該当番組を見て感じたのは、「結果ありき」という違和感でもあった。ひとり暮らしの40代増加は、さらなる晩婚化を想像させるうえ、家族という単位が消えていくことで働くことのモチベーションを下げそうにも感じる。当然ながら少子化はさらに進んでいき、経済活動の萎縮から国全体が衰退していき、いつか高齢化が進んだ社会を支えきれなくなっていく。そんな未来が想像できよう。

番組を担当したディレクターは、AIだからこそ、そんな暗い未来も冷静に予測してみせたのだと言うのだが、そもそもの設問や導き方などから、当初より結論を予想してAIの答えを引き出しているだけではないか。報道したいテーマが先に存在し、それに対してAI……という名のデータベースを駆使して、それらしいデータの相関関係を見つけようとしたのではないか? ということだ。しかし、データの相関を見て、人間が“それらしい”と感じる情報だとわかるよう分析することと、AIが因果関係を結びつけ、正しいと思われる結論を示すこととは異なる。

例えば「ピアノやバイオリンを習っている子は成績が良い」といった分析結果が出たとしよう。だからといって、ピアノを習ったから成績が良いという結果にならないことは、誰もが理解できるはずだ。

ネブラは、あくまでも相関関係を示しているに過ぎず、因果関係を発見して結論を出しているわけではない。そうした意味では情報ツールとも言うべきもので、AIと呼べる領域には至っていない、と筆者は感じたが、ネットで批判が巻き起こったのも、同様に感じた人が多かったからのようだ。統計情報として参考になるものではあるが、それを“人工知能が出した答え”として耳目を集めようというのはこじつけるにしても少々無理がある。

もっとも、NHKは“そもそもAIが示すのは相関関係であり、その分析結果を評価し、どのように捉えるべきなのかを結論付けるのは人間の仕事である”……というコンセプトでネブラを開発し、そこで示された可能性について裏付け取材をして番組をつくるのは人間である……という考えのもとに、最初から制作していたのかもしれない(とNHKは公表しているわけではないので、あくまでも仮定である)。

そう思いを巡らせるならば、番組づくりにおける可能性のひとつとして、こうした“ツール”を用いた番組があってもいいのだろう。しかし、ニューラルネットワークも用いられていない、情報分析を行う担当者の意思やスキルに依存する道具を“AI”と言い張り、ドキュメンタリーや報道のタッチで映像を描くことにNHKが違和感を覚えないとしたら問題だろう。

“AIに聞いてみた”というタイトルには、あたかもコンピュータが独自に導いた答えであるというニュアンスが明らかに含まれているからだ。しかし分析を行う人の意思がそこに入ってしまえば、それは分析を行った担当者の意思が入る。“煽り”とのそしりは避けられない。

“バズワード”への傾倒がもたらす報道の歪み

さて、もし上記のようなバズワードを悪用して話題を喚起させようとした番組というだけならば、それほど大きな問題にはならなかったかもしれない。しかし、この番組について先行取材して記事を掲載したハフポスト(日本語版)が、“AIに聞いてみた問題”にガソリンをぶちまけた。

この先行記事で出てきたのがひとり暮らしの40代が日本を滅ぼす」NHKが作ったAIの分析が冷たすぎるというもので、冒頭の話につながっていく。先行記事のため放送前であり、多くの人は「本当にAIが導いた」と感じたことだろう。

しかし、実際にこの記事を読んでみると、執筆した記者自身、この番組が“AIに聞いてみた”結果を特集していないことを理解していることがわかる。一部を引用しよう。

AIの分析結果をみると、40代ひとり暮らしの数(男性)に対して、一番強く連動しているのが「マンションやアパートの3.3㎡(1坪)あたり家賃」だ。この数字が下がれば、ひとり暮らしの数も減らすことができるのではないか。これがネブラの分析結果を基にした仮説だ。

 

ネブラ(NHK開発のAI)が分析した結果を基にした“仮説”ということは、その仮説を誰かが立てていることになる。記事が出た時点は放送前でネブラの詳細はわからないが、前述のようにニューラルネットワーク以前の単なる情報分析ツールでしかないことは明白だ。

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