残業代ゼロ法案めぐる激論で抜け落ちた本質 高年収の専門職を時間規制対象から外す是非

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裁量労働制や管理監督者という現行制度について、残業代に関する課題を解消すれば、高度プロフェッショナル制度がはらんでいる問題点の解決にもつながってくるといえよう。

「残業代ゼロ」に関しての問題点

私は、裁量労働制や管理監督者の「残業代ゼロ」に関しては、次の3つの問題点があると考えている。

第1の問題点は、裁量労働制や管理監督者を適用できる基準が「あいまい」ということである。

この点、年収ベースで数千万単位を稼ぐトレーダーや、取締役に準ずるような権限を持った大企業の執行役員が「残業代ゼロ」であることには何の違和感もないはずだ。

ところが、裁量労働制や管理監督者を実際に運用していくうえでは、グレーゾーンがいくつかある。たとえば、資格さえ持っていれば原則は裁量労働制の対象となる弁護士や公認会計士。上司の指示を一つひとつ受けながら仕事をしている新人弁護士や新人公認会計士も本当に裁量労働制の対象になるのかなどといった疑問はある。

部長課長クラス以上の管理職を管理監督者と位置づけて、残業代の支払い対象から外している企業は少なくない。ただ、過去の判例などから厳密に考えれば、管理職は管理監督者ではない。外食店や小売り店の店長も同じで、「名ばかり管理職」と指摘されるケースもある。

厚生労働省の細かい通達や、裁判所の判例を読み解いて、「この人は裁量労働制でも大丈夫そうだ」と判断するのは、専門家でも難しい場合が多々ある。そのような状況なので、企業としては「とりあえず課長という肩書が付いているから管理監督者にしておけばいいや」というような判断になってしまい、対象とされた本人が納得いかないと、労働基準監督署に駆け込んだり、訴訟に発展したりということになってしまう。

そういった背景があるので、今回の高度プロフェッショナル制度が、「年収1075万円以上」という誰の目にも客観的でわかりやすい適用基準を設けようとしていることに関しては、一定の評価をすることができる。

ただし、この年収基準がむやみに引き下げられることがないよう注視していかなければならないことを付言しておきたい。

第2の問題点は、会社が裁量労働制や管理監督者に対して、正しい労務管理を行っていない場合が多々見られるということである。出退勤の時間を本人が自由にコントロールできるはずなのに、タイムカードで時間を管理されて遅刻早退控除をされていたり、会社が早出や残業を命じていたりするような労務管理が行われてしまっていることが少なくない。

裁量労働制や管理監督者に残業代が出ないのは、本人に出退勤の自由が認められていることとトレードオフの関係にあるにもかかわらず、「残業代は払わないけど、残業を命じる」という、会社の「いいとこ取り」がまかり通ったら、まさに「残業代ゼロ法案」である。

裁量労働制や管理監督者以上に「脱時間給」を目指す、高度プロフェッショナル制度においては、名実ともに本人が自己の裁量で自由に働ける労務管理が行われることを、絶対条件として保障しなければならない。

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