残業代ゼロ法案めぐる激論で抜け落ちた本質 高年収の専門職を時間規制対象から外す是非

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第3の問題点は、日本的な「みんなで頑張る」的な職場の雰囲気は、裁量労働制や、その延長線上にある高度プロフェッショナル制度といった、「脱時間給」という賃金の支払い方に矛盾しているということである。

裁量労働制や高度プロフェッショナル制度は、高い専門性を持っている人を対象とし、「かかった時間は関係ありませんから、この成果を出してください」という、「職務」に対して報酬を支払うという考え方が大前提にある。雇用契約の範疇ではあるが、報酬の支払い方という側面に限っていえば、「業務委託契約」に近い考え方といえる。

業務委託契約のわかりやすい例を挙げるならば、プロ野球選手である。プロ野球選手は「野球の試合に出る」という内容の業務委託契約を球団と結んでいるが、もし球団から「野球の試合がない日は、サッカーの試合に出てください」と言われたら、「話が違います!」と、トラブルになることは火を見るよりも明らかであろう。

ところが、わが国に職場では「仕事はみんなで行うもの」という雰囲気があるので、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度で「あなたの仕事はこれです」という「これ」に対する成果を出す条件で雇用契約を結んだはずなのに、「これ」が終わっても、早く帰ることができず、ほかの人の仕事である「あれ」や「それ」を手伝わなければならなくなってしまい、「あれ」や「それ」については「ただ働き」になってしまうわけである。

つまり、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度自体が、正しく利用すれば必ずしも労働を搾取するような制度ではないにもかかわらず、会社側が「時間」ではなく「職務」に対して契約をしているということを理解していないがため、本来以外の仕事に従事させてしまい、結果的に「労働力の搾取」という悲劇が起こってしまうのである。

まとめてみよう。

①適用対象となる労働者の対象基準を明確にすること
②適用対象となった労働者には出退勤の自由が徹底されること
③適用対象となった労働者には、本人の本来業務だけを担当させること

という3点が徹底されれば、高度プロフェッショナル制度に対する「残業代ゼロ」という批判に対しては、かなりの批判が解消されるのではないかと私は考える。

本当に過労死法案なのか?

「高度プロフェッショナル制度が、本当に過労死法案なのか」という批判についても考えてみよう。成果を出すことを強く求められるので、そのプレッシャーにより長時間労働となってしまうという主張だ。

この点、連合は修正案で「年間104日以上の休日確保」を高度プロフェッショナル制度の導入要件として示していたが、104日というのは、1年は52週あって、週休2日を前提とすれば年間休日は104日になるということで、週休2日相当の休日が確保されるのであれば、休日が少なすぎて過労に陥るということは考えにくい。

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