早稲田実業初等部を選んだお受験ママの本音 「生活力」も問われる点が慶應幼稚舎と違う
「こんにちは、初めまして」
店に現れた聡美さんは、ビジネスライクな声色で取材班に軽く会釈をした。
てろんとした素材のとろみトップスに、深いグリーンのミモレ丈スカート。シンプルながら洗練されたフォルムのバッグはヴァレクストラのものだろう。
聡美さんは言われなければ絶対に子持ちには見えない、できる女の風を吹かせた女性だった。
聡美さん自身にも興味がわくが、雑談をしている時間はない。取材班は挨拶もそこそこに、さっそく本題に移ることにした。
大学受験制度の良しあし
――早稲田実業初等部(以下、早稲田初等部と表記)を選ばれた理由を、教えていただけますか?
「実は……最後まで暁星小学校と迷っていたんです」
早稲田初等部は大学までのエスカレーター式であるのに対し、暁星小学校は高校まで。大学は別の学校(東大、早慶への高い進学率を誇る)に一般受験をして進学することになる。
聡美さんは最後まで、最終学歴となる大学は受験を経験させ、自分の力で掴み取るべきではないか、と悩んでいたそうだ。
「ただ……一方で、暗記ベースの受験システムに疑問もあって。夫とも話し合い、最終的には、子どもの将来を考えたら、受験のための勉強に時間を費やすより自分の好きなことに注力させてあげたほうが良いという結論に達しました」
聡美さんの意見に、取材班も大きく頷く。
聡美さん自身もご主人も、そして取材班も大学受験を経験している。だからこそ、その長短をよく知っている。
聡美さんの言う通り、結局は暗記力と要領の良さが物を言う受験制度には疑問点も多い。
ただ、志望校合格という目標を掲げ、達成に向けて努力し続ける根性を養ったり、楽に流されず自分を律する力を学んだり、自分の力で合格を掴み取ることで味わえる成功体験の尊さを、我々は知っている。
しかしながら、根性も自律の精神も成功体験も、他に得られる場面があるなら何も大学受験を経験する必要はない、とも言える。
「伸びやかに好きなことをしながら、学歴もついてくるなら最高です。それが、早稲田初等部を選んだ理由ですね」
――確かに、それは最高ですね……。
取材班は、聡美さんの息子が心底羨ましくなってしまった。受験に疲弊させられることなく好きなことに没頭でき、しかも学歴も得られる環境。
それは本人の努力以前に、両親に相応の資金力があるからこそ得られる恩恵であるが……。