自動車業界 事業環境の厳しさ増すも、日本勢の信用力は当面安定的 《スタンダード&プアーズの業界展望》
上席アナリスト 薩川 千鶴子
主席アナリスト 小林 修
自動車業界を取り巻く事業環境はますます厳しくなっている。主な要因は、米国の景気減速とガソリン価格高騰を背景にした北米の自動車需要の低迷、原材料価格の高騰、主要通貨に対するドル安基調などである。さらに、米国サブプライム問題や中古車価格下落の影響で販売金融事業の資産劣化リスクが顕在化しつつあることも懸念材料である。こうした状況から、世界の自動車メーカー各社の収益への下方圧力が強まっており、スタンダード&プアーズは米ビッグスリーを格下げ、一部の欧州メーカーのアウトルックを下方修正した。日本の自動車メーカーも大半が2008年3月期の最高益から一転して2008年4−6月期には減益となり、一部では業績予想の下方修正や生産体制の見直しを余儀なくされるなど、収益の下振れリスクが増している。
しかしながら、国内メーカーは、ガソリン価格が高騰するなかで、燃費性能に優れた小型車の品揃えやハイブリッド車の強みなど高い商品競争力を武器に、米国市場でのシェア拡大や新興市場での販売台数の増加を維持している。また、欧米勢と比べて地理的分散が進んでいることや強いコスト削減力を有していることから、相対的な優位性を維持しており、収益性の悪化をある程度抑制することができるだろう。また、北米市場で販売金融事業の資産の劣化リスクが以前より高まりつつあるとはいえ、良好な資産の質や保守的な与信方針を元来維持してきたことを考慮すると、収益に大幅な悪影響を及ぼす可能性は限定的とみている。さらに、大手3社にスズキを加えた投資適格以上の格付けを持つ4社においては、仮に業績やキャッシュフローが一時的に多少下振れても、強い財務基盤がある程度バッファーとなって、格付けを支えることは可能とみており、スタンダード&プアーズでは、日本勢の信用力は引き続き概ね安定的に推移すると予想している。