自動車業界 事業環境の厳しさ増すも、日本勢の信用力は当面安定的 《スタンダード&プアーズの業界展望》

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新興市場は引き続き好調

米国市場の落ち込みに加え、国内市場や西欧市場の低迷も続いている一方、ロシア、中国、中東などの新興市場では日本の主要自動車メーカーの販売は引き続き好調である。欧米メーカーの大半に比べて、日本メーカーは地理的分散を一段と進めており、主要先進市場の低迷をある程度補える構造を徐々に構築しつつある。

新興市場のなかでも、富裕層向けを中心に高価格帯の車の販売が伸びている中国やロシアといった市場で、日本の自動車メーカーは高品質車へのニーズに対応して強みをより発揮しやすく、2008年4−6月期も多数の日本メーカーが同市場で顕著な販売の伸びを維持している。インド市場では現地および海外メーカーの低価格車に競合するため、日系メーカーはコスト競争力をさらに改善させる必要に迫られているが、スズキは、連結子会社のマルチ スズキを通じてインド市場でトップを維持し、堅調な収益を上げている。

新興市場の収益への貢献が急速に高まっている結果、ここ数年間、すべての日本の自動車メーカーの北米および日本市場への依存度は低下している。たとえば、ホンダの所在地別セグメント情報によると、2008年3月期の営業利益に占める北米と日本の割合の合計は68%と、2003年3月期の89%から低下した。一方、アジアとその他の地域の営業利益に占める割合は9%から27%へ上昇した。所在地別セグメントの数値と、収益の実態をより正確に反映した仕向け地別の数値には乖離があるとみられるものの、仕向け地別の場合でも、新興市場の構成比が上昇している傾向におそらく変わりはないだろう。米国市場は引き続き、日本の主要メーカーにとって利益の大半を稼ぐ最大の収益源であり続ける可能性が高いが、利益全体に占める比率は徐々に低下していくとスタンダード&プアーズは予想している。

為替リスク

為替の変動は依然として、日本の自動車メーカーの収益性に深刻な影響を与えうるリスク要因である。円高・ドル安基調を反映して2009年3月期は各社とも為替を相当な減益要因として業績予想に織り込んでいる。スタンダード&プアーズでは、為替リスクは輸出依存度が高い自動車業界にとって避けられないリスクと認識しており、各社の格付けに、為替リスクをある程度織り込んでいる。その一方で、日本のトップメーカーは継続的なコスト削減努力とローカリゼーションの推進により、為替リスクに対する抵抗力を強めていると判断している。大手3社は世界市場で競争力を高めるとともに、為替変動の影響を最小限に抑えるために、海外で生産と調達の現地化を進めている。

日本の自動車メーカーは過去10年間、海外で工場の新増設を進めてきた。海外での生産能力は1998年の500万台強から、現在では2倍以上の1,100万台へ増えた。米国で販売される日本車のうち、北米で生産される自動車の比率は10年前にはわずか12%だったが、現在では60%以上を占めている。

原材料価格高騰の影響は拡大する懸念も

鋼板価格をはじめとする原材料費の増加も、自動車メーカーの利益に大きな影響を与える要因である。日本の鉄鋼メーカーは業界再編や高級鋼材の供給能力の向上を背景に価格交渉力が増したことで、2003年度以降、自動車用鋼板の価格をかつてないほどの頻度で引き上げることに成功してきた。高級鋼材のタイトな需給バランスや、最近の鉄鉱石価格の高騰を考慮すると、自動車メーカーは2008年とそれ以降も鋼板価格のさらなる値上げに直面する可能性がある。

ただし、過去数年間、日本の大手自動車メーカーは原材料費の増加をほぼ吸収してきた。2008年3月期にも大手3社は原材料価格高騰の影響をコスト削減努力によって吸収できた。日本の自動車メーカーはコスト削減能力に優れ、これまで実績をあげていることから、今後も原材料費の増加の影響をある程度軽減することは可能とスタンダード&プアーズはみている。

特にコスト削減能力で定評のあるトヨタは原価低減活動として2005年に開始したVI活動に加え、緊急VA(Value Analysis)活動を約15年ぶりに発動した。原価低減活動は通常今後投入される新型車を対象に大幅なコスト削減効果を実現するが、緊急VAでは既存の車種についてもコスト圧縮に取り組む。緊急VA活動への取り組みが目に見える形で成果を表すのは早くて来期以降とみられるが、同社の中長期的な原価低減力の一段の強化につながっていくと考えている。

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