自動車業界 事業環境の厳しさ増すも、日本勢の信用力は当面安定的 《スタンダード&プアーズの業界展望》


米国市場2つのリスク−−需要減少と販売金融資産の劣化

米国市場は深刻な需要減少に直面している。総需要は2008年に1,440万台、2009年には1,410万台まで落ち込むとスタンダード&プアーズは現時点で予想している。また、ガソリン高を受けて、大型車から低燃費の小型車への需要シフトが加速しているため、自動車業界全体で車種構成が悪化している。特に苦戦しているのはフルサイズピックアップや大型SUVへの収益依存度が高い米ビッグスリーであり、販売不振からくるキャッシュの流出は深刻さを増している。

世界最大の自動車市場である米国市場の落ち込みは日本の自動車メーカーにも悪影響を及ぼしている。2008年1−7月の総需要が10.5%減少したなか、日本勢の合計販売台数は前年同期比3.2%減と、米国勢の17.8%減に比べて小幅にとどまっているものの、1−5月は0.5%減、1−6月は2.9%減と、減少幅が緩やかに拡大している。個別にみると、2008年1−7月の販売台数では、トヨタが前年同期比7.6%減、日産が0.9%減。ホンダは3.2%増と日米大手6社のうち唯一増加を維持して健闘したが、7月単月では前年同月比1.6%減となった。トヨタと日産はフルサイズピックアップと大型SUVでガソリン価格の高騰による消費者離れの影響を受け、トヨタのタンドラと日産のタイタンの2008年7月の販売台数は前年同月比でそれぞれ42%減と30%減と、特にフルサイズピックアップの販売不振が際立っている。これを受けて、トヨタはタンドラの減産やテキサス工場への生産集約、ミシシッピ工場でのプリウス生産など、北米生産体制の再構築計画を発表、2008年の販売・生産計画の下方修正も行った。日産もトラックの減産と乗用車の増産など生産調整の実施に加え、一部工場で早期退職の募集を発表した。北米での販売減速と減産は各社の収益を圧迫し、米国市場の落ち込みがさらに加速すれば、日系メーカーの利益やキャッシュフローに及ぼす影響は、ホンダをはじめ大手3社では米国への依存度が高いだけに、増幅される可能性がある。

それでも、日本のトップメーカーは米国のメーカーと比べて、総需要減少の影響を受けにくいとスタンダード&プアーズは引き続き考えている。ガソリン価格の高騰を受け、消費者のニーズが大型車から低燃費の乗用車へシフトしており、小型の低燃費車に強みを持つ日系メーカーに有利となっているからである。スタンダード&プアーズでは、日系の大手3社は米国市場で強い地位を維持し、業界内でも景気後退の影響を最小限にとどめることができると予想している。7月単月では日系メーカー全社のシェア合計は43.0%となり米3社のシェア合計42.7%を初めて上回った。総需要減少の影響を回避できないとはいえ、日系大手3社は低燃費の乗用車での強みを武器に、販売台数の落ち込みを競合他社を下回る水準に抑えることができると予想される。

また、日系メーカーの北米生産体制の見直しは、短期的には収益を圧迫する要因となるものの、中長期的にはむしろ生産効率を高め競争力のさらなる強化につながる可能性があるとスタンダード&プアーズではとらえている。米ビッグスリーが工場閉鎖を含む大規模のリストラを追加で余儀なくされている半面、トヨタと日産の減産の影響は限定的かつ一時的とみている。トヨタと日産ともに乗用車の販売は2008年1−7月でそれぞれ2%減、5%増と好調であり、SUVから乗用車へ生産能力を切り替える計画である。日産では、2011年からクライスラーよりタイタンのOEM供給を受けることも既に決定している。また、ホンダの場合は製品ラインアップにピックアップや大型SUVの車種が少ないことと生産体制の柔軟性が格別に高いことから、減産リスクは比較的低い。米ビッグスリーも需要シフトに合わせて供給を小型車へシフトさせる戦略だが、競争力の高い小型車を開発しラインアップを拡充するには時間がかかるため、ピックアップや大型SUV比率の高い現在の製品構成を変えるのは容易ではない。

日系メーカーが潜在的に抱えるもう一つのリスクが販売金融事業の資産の劣化である。サブプライム問題の影響から、日系メーカーの販売金融事業の貸倒率は近年緩やかな上昇傾向を示しているとみられる。トヨタは4−6月期に貸倒引当金を積み増した。さらに、最近の中古車価格の急速な下落によってリース車両の残存価値リスクが顕在化してきたことも懸念材料だ。リース車両の残存価値下落に対して日産は4−6月期に420億円、ホンダは250億円の引当金を積み増し、トヨタは米国販売金融子会社における残価損と引当の合計が前年同期比で90億円増加したと説明している。ただし、日系大手3社、なかでもホンダやトヨタは、元来高い資産の質や保守的な与信方針を維持してきたことと、このような状況に対して一段と保守的な与信方針を導入したり、回収を強化するなど適切な対応をしているため、貸倒率の悪化が急速に進んで歯止めがかからなくなるような状況に陥る可能性は低いとみている。また、中古車価格の下落幅が大きいのは主にフルサイズピックアップや大型SUVであるため、米ビッグスリーと違ってこれら車種の販売比率やリースの取り扱い比率が低い日本勢への影響は、比較的限定的にとどまるとみている。しかし、今後も中古車市場の価格下落に歯止めがかからない場合は、全体収益や格付けに対する下方圧力が強まる可能性も出てくる。

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