夫婦のやり取りは異国企業との取引と同じだ 互いの好きな領域に踏み込みすぎると危ない

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円城:あのさ、連載でも「セクシャリティの話題はもう少し丁寧に扱ってほしい」とあれほど言ったのに、ぜんぜんわかってくれてないね。しかもそういう本を僕の枕元に置いとくのは、完全にセクハラじゃない。

田辺:最近、カフェでも露骨にしゃべりすぎてて店員さんに注意されたので反省してます。

夫婦の間には大きくて無難な話題があったほうがいい

円城塔(えんじょう とう)/1972年北海道出身。『道化師の蝶』で第146回芥川龍之介賞受賞、『屍者の帝国』(伊藤計劃との共著)で第31回日本SF大賞特別賞、第44回星雲賞日本長編部門受賞(写真:菊岡 俊子)

円城:夫婦の興味で唯一かぶっているのは、軽めのオカルトかな。偽古文書とか、新興宗教とか。

田辺:大本教の出口王仁三郎(でぐちおにさぶろう)とか。

円城:そうそう、新興宗教系は、なんとなくお互い主戦場にしていない中立地帯だね。その緩衝地帯で遊んでるうちに、1日が終わる。

田辺:夫婦の間には「大きくて無難な話題」があったほうがいいですね。本当に相手が好きなものの話題だと、酔ったときについ本音が出て、相手を傷つけちゃうことがあるので。

円城:仕事ともぶつからないし、本当に好きな趣味ともぶつからない、なんとなく興味はあっていろいろ調べてはいるけれども、まあどうでもいい、って話題がいい。だから、本書みたいに「好きな本を勧め合う」というのはたいへん危険なんです。

田辺:同じ映画を観るのも避けるもんね。

円城:うん、なるべく一緒には行きたくない。

田辺:お互い、そこまで関心が深くなさそうなやつならいいですけど。『ウルヴァリン:SAMURAI』(注:『Xメン』シリーズに登場するウルヴァリンを主人公にした、スピンオフシリーズの2作目)は一緒に見たけど、これはいい感じのB級テイストだったので大丈夫だった。でも、シリーズ最新作の『LOGAN/ローガン』(注:ウルヴァリンを主人公にしたスピンオフシリーズの3作目、対談時点で公開中)はすごく好きになりそうな予感がしてるので、やめたほうがいいかな。私が感動してるのに「イマイチだったな」なんて言われたら、つらい。

円城:話題の『メッセージ』なんて、かなり危ないと思う。

田辺:危ない、危ない。私、横で思いっきり寝てるかも。だから「地雷はこの辺」って予感はだいたい共通してる。

円城:野生動物同士の勘みたいなもの。

田辺:だから夫婦で好きなものは、まったく違ったほうがいいと思います。「なんかよくわからないけど、この人、これがすごく好きなんだな」って眺めていられるし、その間、自分は違うものを愛でていられるから。

円城:逆に、嫌いなものは割と似てるね。

田辺:むしろ「自分が嫌いなものを相手は大好き」っていうほうが危ないよ。

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