夫婦のやり取りは異国企業との取引と同じだ 互いの好きな領域に踏み込みすぎると危ない

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――結局、夫婦がうまくいくための要件って何でしょうか。

田辺:お互い、あまり我慢しないことじゃないでしょうか。周囲でうまくいっていない夫婦を見ると、どちらかがすごく耐えていることが多いので。

円城:でも、結局どちらかが耐えることになるんだよ、これは。夫婦は損得を考えないことに尽きる。

損得や対等かどうかを考えてもしょうがない

田辺青蛙(たなべ せいあ)/1982年大阪府生まれ。2008年、第15回日本ホラー小説大賞短編賞を『生き屏風』で受賞。趣味はコスプレで、円城塔との披露宴では碇シンジのコスプレを披露した(写真:菊岡 俊子)

――円城さん、ご自分に言い聞かせているようにも聞こえます(笑)。

田辺:この人(円城さん)はぜんぜん得をしていないのに、なんで私と付き合ってるんだろう?って、いつも思います。

円城:だから、損得ではないわけ。損得を考えるとつらくなるので、機械的に体が動くようになればいい。「ゴミの日だからゴミを出そう」みたいなものだよ。なにも考えないで機械的にゴミ袋を運んでると、損得なんて考えなくなるでしょ。

田辺:……なんかそれ、DVを受けてる女性が自分に言い聞かせて耐えてるみたいじゃない。「彼氏は殴ってくるけど、いい人なの」「彼にもいいとこはあるの。楽しかったこともあるの」って言うけど、殺人鬼だって花に水やったことくらいはある。

円城:僕は殴られてないですし、この人にも、いいところはありますよ。

田辺:その言い方はダメだろう(笑)。

円城:楽しい思い出もあり……ますよ。フフフ。

田辺:やっぱり対等じゃないといけないと思うんだけどな。ギブ・アンド・テイクというか。

円城:対等が理想だというのはわかる。だけど、この世の中にはなにかの仕組みのようなものがあって、必ず夫婦のどちらかに負荷がかかるようになってるみたいなんだよ。ギブ・アンド・テイクをバランスよく成立させるには、すごくコストがかかるし、そのコストは普通かけられないほど、大きい。

――世の中では「結婚はコスパが悪い」という考え方もあります。役割分担の不平等がストレスになるとか、独身時より使うおカネや時間が減って損をする、とか。

円城:それは、夫婦を「同じ国の、同じような規模の会社同士」と、とらえちゃってるからじゃないですか。そうじゃなくて、「違う国の、規模のぜんぜん違うふたつの会社同士」だと考えればいい。だったらコスト計算なんて適当だし、通貨も言葉も違うんだから、損得や対等かどうかを考えてもしょうがない。僕にとっての夫婦のイメージって、これです。異国の謎の会社とのやり取りみたいなもの。

――もともと結婚にそういうイメージを持っていたんですか。

円城:いえ。夫婦生活を営んでるうちに「世界は広いな」って気づいた(笑)。家庭の中に、実は別の国があったという発見。すごくスケールの大きなことが家の中で体験できる。……という意味では、損得で言えば「得」してますね。

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