慶應幼稚舎には「社会の上澄み」が集っている 福翁自伝対策セミナーもある"お受験"の実態
――ああ、さすが。
取材班は一同、阿吽の呼吸で頷いた。
桜子さんの内側から滲み出るのは、母に徹する女の覚悟。その凜とした美しさを前にして、飾り立てた美などは一瞬で霞んでしまう。
取材班は、自身が持ってきたシャネルのバッグをそっと目につかぬ場所に隠し…まずは気になる、あの質問を投げかけた。
「桜子さんご夫妻も、やはり慶應のご出身なのですか?」
親の面接はない。しかしながら…
「ええ。でも私も主人も、大学からです」
――なるほど…内部生ではないにしろ、やはり慶應一家ではあるらしい。
卒業生でないと入学は難しい。そんな噂がまことしやかに囁かれているが、桜子さんの話により信憑性を帯びてくる。
しかし桜子さんは、続いて意外な事実を教えてくれた。
「でも…親の出身校は、“直接的には”関係ないと思いますよ。幼稚舎のお受験は親の面接もありませんし、願書に出身校を書く欄もありませんから」
親の面接がないとは意外だった。
むしろ、親の面接で合否が決まるようなイメージさえあったが、それは無知ゆえの誤解だったようである。
しかし桜子さんの言い方には、微妙に引っかかる点がある。“直接的には”というのは、どういうわけか。直接的ではなくとも、“間接的には”合否に影響する、ということだろうか?
――では、ご両親の出身校は願書に書かないんですね?
取材班が念を押すように尋ねると、桜子さんは薄くマスカラを施した睫毛を数回上下したあとで、すっと目線を逸らした。
「…いえ、慶應出身者は、自由記入欄にそう書きます」
!!
あくまで、幼稚舎が親の出身校を聞き出しているわけではない。しかし、暗黙の了解がある、ということだ。
「それから…」
観念したように、桜子さんはゆっくりと口を開く。そして彼女の口から、さすがは慶應と言わざるを得ない、驚愕の審査基準の存在を知らされた。